リレーえっせい 第44回

税を払いたい国、払いたくない国


伊藤洋一

 対米同時多発テロは、確かに世界の図式を変えた。株式市場などマーケットは米連邦準備制度理事会(FRB)による足早な金融緩和と、1400億ドルに上る米政府の財政刺激措置(減税を含む)でレベルを保っているが、経済の落ち込みは着実に進んでいる。この景気の落ち込みは一人アメリカだけのものではない。日本も、そして肝心なことに開発途上国の経済をも直撃する。

 経済が直撃された中で進んでいるのは企業収益の大幅な減退だ。これは日本でもアメリカでも顕著で、世界的な傾向である。ということは、世界的に法人税収入は著しく減少する。今年から来年にかけては、世界中の国で、「歳入欠陥」が生ずるだろう。ということは、租税収入に占める個人所得税の割合が増えるということである。なぜなら企業の利益の減少は素早く進むが、国民の所得は減少するにしても一般的には緩やかなカーブを描く。その分だけ、租税収入に占める個人所得税の割合は増大する。

 ということは、我々の税支払いの比重が増えるということだが、「拒税同盟」の一メンバーとしては改めて次のことを申し上げておこう。「我々は払わないと言っているのではない。うまく使ってくれるなら、いくらでも払う」という基本的スタンスである。

 なぜこういうことを言うかというと、アメリカのテロ以降の税金の使い方が鮮やかなまでに集中的であり、合目的的で、しかも敏速決定だったからだ。であるが故にニューヨークの株式市場での受け止め方は良好であって、あれだったら払っている方(アメリカ国民)も納得するのではないか、と思ったからである。

 実際のところ、テロ後のアメリカの動きは素早かった。ブッシュが200億ドルの戦費を議会に要求したら、議会がポンと出してきたのは400億ドル。要求額の2倍である。その後も狙いを定めた支出が続く。航空会社に対する150億ドルの支援、そして今議会を通過しようとしている減税を柱とする1000億ドルの財政措置。

 これで経済が維持できるかどうかは分からない。しかし、見事なまでに合目的的、集中的な措置である。財政が黒字だから出来るという面があるが、お金の使途がこれだけ明確なら反対の声がほとんど聞こえないのは十分理解できる。お金は使うためにある。国民の福祉のためにある。それがはっきりしているから、超党派で合意が出来る。

 日本はどうだっただろうか。合目的的、集中的な使い方をしてきただろうか。日本も財政が黒字だったことはある。80年代のバブルの時期には法人税が著しい伸びを示した。しかし日本の税の使い方は総花的、惰性的であった。つまり、価値のある方向に向いている部分が少なかったのである。

 財政構造がこれだけ危機的になっても、日本のこの総花主義、惰性は変わっていない。支出構造は大きなところは昔のままである。これでは国民の気分も変わらないし、政府が「何かをしている」という印象は生まれない。

 つまり税を支払う立場の国民が「税を払いたい国」と「払いたくない国」が厳然として存在しているということである。残念ながら同時テロ事件を契機に、国の危機対応能力が顕著に前に出てきた印象がする。確かに日本の危機はアメリカの危機に対して静かに進行した。しかしそれにしても、彼我の差は大きい。これこそが問題だと思うのである。

 国の財政のより大きな部分を支払う身分になった我々は、この「税の使い方」に関してこれまで以上に発言しなければならないと思う。

(2001年11月2日)
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