無防備な君
並木祭の後、互いの思いを伝え合い両思いになった二階堂要と鈴木しおんだった。
並み居る強豪を出し抜き追い落としてやっと手に入れた愛しき彼女。幸せの絶頂であろう。
その彼女に要は一つだけ危惧している事が有った。
「しおんー。」
「え?あぁ、平太君。」
後ろから髪を引っ張られても楽しそうに談笑する彼女。
「鈴木じゃないか。」
「あ、音先生。」
肩を抱かれても全く動じない。
「おい、鈴木。ちょっとこっち来いよ。」
「なぁに冬弥君。」
さり気無くだが腰に手を置いている。
「お早うしおん。今日も可愛いね。」
「お早うカイル。」
頬にキスまでされている。
要の怒りは頂点に達していた。
そう、両思いになったにも関わらず、この野郎共は遠慮する所か益々しおんにちょっかいを出しているのである。
しかもしおんは全く無防備だった。それをいい事に爽やかさを演出しつつ奪おうとしているのであった。
「・・・・・・。」
見た目は普通であるが、彼の周りには怒りのオーラが漂っていた。
「会長―っ、コレ読んで下さ・・・ヒッ!」
ラブレターを渡しに来た罪の無い女生徒が怯える事となった。
そうこうしている間にも今度は冬弥と並んで移動する彼女に出会った。
「あっ、会長。」
微笑むしおんに思わず顔を崩しそうになったが
「・・・よぉ。」
隣の勝ち誇った顔の冬弥が白々しく挨拶をする。
「・・・あぁ。」
「?」
火花は散っている。だが過去曲の事についてなら簡単に気付いたしおんだが今は全く気付いていない。
自分の事を水面下で争われているとも知らずに?マークを散らしている。鈍感なお嬢さんである。
「会長?冬弥君?」
要は眉を顰めた。
もう一つの不機嫌の原因。
それは
「・・・・・。」
「会長?」
コレである。
「・・・・・。」
未だに自分の名前を呼んでくれない事である。
「行こうぜ鈴木。遅れちまう。」
「え?でも・・・。」
「・・・俺の事に構うな。行って来い。」
「え?あ、うん・・・。」
申し訳無さそうに振り返り振り返り去っていくしおんは非常に嬉しかった要だが、
「・・・黒崎っ!!」
何時の間にかしおんは手を握られていた。
「・・・・・・。」
どうしたらしおんが自分の物だと言う事を、奴等に骨の髄まで叩き込めるのだろうか。
要は生徒会の判子待ちの資料を眺めながら頭を巡らせていた。
誰もが要注意人物だが・・・特に黒崎冬弥は幼馴染の上に同じクラス、
しかも隣の家という非常に嫌なポジションに居る。いや、カイルや平太もやけにしおんに馴れ馴れしい。
音先生も油断なら無い・・・。
もう彼の頭には一つの事をやり遂げた仲間と言う概念は無くなっている。
トントン。
「・・・はい。開いている。」
ひょこっ。顔を出したのはしおんだった。
「会長・・・。」
「鈴木。」
要の顔が綻んだ。
しおんはおずおずと室内に入ってきた。
「あのね、会長。昼間・・・。」
「あぁ、気にするな。少し考え事をしていただけだ。」
「そうなの?・・・機嫌、悪い?」
「いや・・・。」
「本当に?」
「本当だ。」
「良かったぁ。」
にこっと破顔するその様子が可愛くて要はその身体を抱き寄せた。
「か、会長?」
「何だ。」
「だ、誰か来たらどうするの?」
当然の事ながらしおんは真っ赤になって離れようとする。
「あいつらには触らせて俺なら駄目なのか。」
「はっ?」
しおんは目を丸くした。
「あいつらにはよく触られてるだろう。」
「え!?さ、触られてるって・・・!ち、違うよあれは・・・挨拶みたいな物じゃないの!?」
あれが挨拶ならセクハラも挨拶に入るだろうと思う。
「・・・それでもだ。」
「か、会長・・・!!」
一向に手を緩めないどころか益々力を込める要にしおんはパニックに陥った。
「要、だ。」
「え?」
「お前は俺だけ名前で呼ばない。不公平だ。」
「だ、だってずっと会長だったから・・・。」
「呼ばないなら考えが有る。」
「えぇ!?会長っ!!」
「二度目だ。」
「んっ!?」
イキナリ口を塞がれて驚き、背中を叩くが一向に要は止めようとしない。
息が出来なくなってぼーっとなり始めた時にやっと解放された。
「かい・・・か、要っ!!」
「学習したようだな。そう言えば意外と物覚えは良かったな・・・。」
しれっと残念そうに要は言った。
「なっ、なっ・・・どうしちゃったの?」
「別にどうもしてはいない。」
「嘘っ!おかしいよ会長っ・・・あ。」
「三度目だ。」
「え!?やんっ!」
今度は首筋に口付けられた。しばらくして唇を離した要だったが、
その肌にはしっかりと跡が残っている。(それ目的だから当たり前だが)
「・・・今度呼べば、先に進ませてもらう。」
要はしおんにしか見せない笑顔でとんでもない台詞を言ってのけた。
「!!!」
思わず自分の身を抱きしめたしおんだった。
「わ、解ったっ!!頑張るからっ!!」
「努力してくれ。しおん。」
背中から優しく抱きしめられてしばし呆然としたしおんだったが、はっと気がついた。
「い、今あたしの事しおんって呼ばなかった!?」
「ああ。呼んだ。」
「嬉しい!かい・・・。」
「かい、何だ?」
笑顔で続きを聞く要。
「か、かい・・・海岸っ!明日海岸に行こうっ!!」
無理矢理なこじつけである。
「・・・まぁいい。」
少なくとも首筋に残った印はしっかりと自分の物だと言う事を誇示している。
送って行くつもりだが、万が一自分が帰った後に訊ねて来た人間にも知れることだろう。
今日のところは安心だろう、と確信した。
無防備な彼女が何時自覚を持ってくれるか心配な要だったが、
それもまた彼女の魅力である事は代えがたい事実であったりした。
後書きもどき
・・・ギャグでなくて、甘いものを目指したのだが・・・本人的には充分ゲロ甘。
でもそんなに甘くないですね・・・。はう。
会長、好きだーっ!!寝込みを襲わせてくれーっ!!(死)
・・・主人公の性格が極悪にならなくて良かった・・・。それだけが心配でした。
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