機動戦士ガンダム0081




1:定められた結論


2:失いし物・微笑みの力


3:与えられし力
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4:再編1
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1:定められた結論
U.C.0081.3.21  14:00
地球・地球連邦軍総司令本部ジャブロー・C−502会議室
 「楽観的な希望的観測により安易な強襲作戦を計画・実行し、部隊を壊滅させたのは誰かね?・・・少なくても我々情報部ではないのだよ。」
 「MS10機が配備されている基地をソフトターゲットだと言ったのは誰だ!責任を我々に押し付けるつもりか!?」
 「言葉に気をつけたまえ!」
 「ハワード少佐、押し付けるどうこうではない、何故このような結果になったか・・その原因を究明しているだけだ。」
 「・・・ハッ・・」
 防音聴設備が完璧に整えられた会議室に、地球連邦軍の制服をまとった人影が8つ。部屋の奥正面には1人の中年と2人の初老の男、その右側に若い男女が1人づつ、そして正面にも直立した姿勢の男が1人、扉の左右には屈強そうな男が武装して立っている。今この会議室では、壊滅的損害をこうむった特務隊所属のMS隊隊長への査問会が開かれていた。
 「我々は、情報部のヒリング中佐より今回の目標はソフトターゲットだと聞かされていました。よって、レンジャー部隊が目標の半包囲を完了した後、艦砲による威嚇射撃と降伏勧告を行い、さらに所属全MSをもって敵基地に直接空挺降下しました。無駄な戦闘を避けるべく、威圧効果で敵を降伏させる作戦です。」
直立姿勢の男・・・特務部隊グリフォン隊所属のMS部隊隊長ハーワード少佐・・・は、冷静になって繰り返す。
 「しかし、ターゲットは降伏には応じなかった。」
 「はい。彼らには10機ものMSと数台の戦車がありました。それだけの戦力があれば、降伏する必要などないでしょう。」
 「ふむ、・・・・確かにソフトターゲットとは言えないな・・・少なくても特務1個中隊のみに任せる目標ではない。何故このような情報の齟齬が生じたのかね?」
大佐の階級章をつけた左端に座る初老の男が、机に肘をつき口もとで手を合わせるような姿勢で、中年男性に問う。
 「・・・・我々情報部は、正確な情報を提供すべく努力しておりますが、常に正確な情報を用意するというのは難しく・・・特にアフリカ大陸は地形特性からしても・・・・・・・・」
 「中佐、言いたい事は分かる・・・が、だからこそ連邦は君たち情報部を設置し、予算を割いておるのだ。その結果がこれではな・・・。」
中央に座るの初老の男・・・階級は准将・・・が、弁解を続ける情報部中佐に割り込んだ。
 「しかし、少佐は経験豊富な特務隊の隊長です。事前情報と事実が必ずしも一致しない事は十分予測できたはず。私がこう言うのもなんですが情報を鵜呑みににし・・・・」
中佐は顔中に汗を浮かべつつ、それでも弁解を続けようとする。
 「中佐・・・・、今回の目標となった基地戦力の事前情報はこれかね?」
准将自らが手元のコンソールを操作し、スクリーンに情報を表示する。

当該目標の予想戦力
陸戦艇ギャロップ:1
MS:0ないし1〜2
航空機:0ないし1〜2(V/STOLもしくはヘリ)
戦車:数両もしくは0
装甲車両:数両
その他車両:多数
対戦車及びMS用トーチカ:3〜5
対空用トーチカ:6〜10
対人用トーチカ:不明(複数確認)
380mm以上の実体弾大口径砲:1門
本目標は、対人及び対ヘリの防護に重点を置いており、MS・重装甲車両に対する装備は極めて貧弱と思われる

 情報が表示され室内全員の視線がスクリーンに集中するなか、自らは一言も話さず、他者の言葉を一言一句逃さず猛烈な速度で書きとめていた若い男女・・・彼らも立派な士官・・・は、しばしの休息をとる。
査問会の様子は映像・音声ともに2系統の媒体によって収録されているが、機器の故障・データ改竄に備え、さらに2人の速記者が様子を書き留める。
ただし、本当のところは厳重に管理され暗号化されたデータを改竄するのは殆ど不可能であり、人間による速記という不確かな媒体が存在するのは、「形式を守っている」という意味合いが強い。実際ジオンやコロニーの自治政府では、速記は行われていない。

 「閣下、我々グリフォン隊に提出された情報では、MSは“0”と表記されておりました。調べて下されば御理解頂けるかと思います。」
本来自分の査問会であるのに、取り残された感のあるハワードはスクリーンに表示されたデータを見て指摘した。
 「ふむ・・・事実とすれば、当査問会に虚偽の報告をもたらした事になるが・・・・・で中佐、例えこちらの報告が正しく行われていたとして、貴官が攻撃部隊の隊長であったらどのような作戦をとる?」
 「・・・はっぁ、ええー、敵予測戦力は低いものの油断する事なく・・・・」
予想外の質問に、当惑しつ無難と思える回答をする。
 「中佐、そんな事だから我々は現場の者に「ジャブローは現場を知らん」等と云われるのだよ。」
初老の大佐が呆れたように言う。ジャブロー本部にあって、この年齢で大佐というのは出世が遅いほうであり、エリートコースに乗ったのではなく現場からの叩上げである事が伺える。
 「はっ、しかし・・」
 「精神論としては、どのような相手にも油断する事無く、細心の注意を払い、全力をもってあたるというのでよい。・・・・が、実戦ではそうはいかんのだ。どのような状況であっても気を抜くのはいかんが、それらとこれは同意ではない。時として慎重論よりも、奇襲や強襲が有効な場合があるのだ・・・その程度は“学校”で習わなかったかね?」
 「大佐の言う通りだ。極論だが、どのような相手にも‘絶対”勝つ事を目指すのであれば軍団規模の戦力・・・いや、相手の10倍、100倍の戦力をそろえれば良い。だが実際問題としては、そんな事は不可能だからな。」
大佐の言葉に准将が同意を示す。それは、大佐の意図とは多少ズレた物ではあったが、その事を指摘する者はいないし、その必要もない。
 「はい閣下。その為に我々特務部隊がいます。それに、あえて言わせて頂くと、我が特務隊と予測にあるターゲットの戦力比は少なく見積もっても8:1以下です。」
ハワードは事態の展開に不信感すら覚えたが、それを表に出さないよう注意し准将後を継いだ。
 「うむ。」
 「・・・・」
 「では、そろそろ・・・。」
 「そうだな・・・・。少佐何か付け足す事はあるかね?」
 「いえ、お伝えしたかった事は、報告書と先ほどの答弁で全てです。」
 「分かった。では、そのまま少し待っていたまえ、姿勢は楽にしてかまわん。」
 「ハッ」
その言葉を最後に大佐と准将が何事か囁き会う。が、既に結論は出ているのであろうか、それは2.3度繰り返されただけで終り、形として行っているようにも見える。
 「ハワード少佐」
2人の様子をぼんやりと眺めていたハワードは准将に呼びかけらられ、慌てて姿勢を正す。
 「本査問会は、ハワード・C・クラーク少佐に対する、アフリカ大陸南部・ダイヤモンド鉱山跡を根拠地とするジオン軍残党の掃討作戦・作戦コードSAF−021における、MS隊の壊滅的損失に対する責任は一切認められないものとする。これは、情報の不備により引き起こされた悲惨な事故であり、ハワード少佐個人が、それを予測または回避する事は不可能だと思われた為である。また、当時の状況においてハワード少佐が執った作戦行動は、極めて適正なものであった事も本結論の判断材料の1つとなった事を述べておこう・・・以上だ。・・・・大佐。」
 「はっ、今回の事態を受け当査問会は、情報部に対しその活動と編成に抜本的な改革を要求するものとする。・・・・それからヒリング中佐、君は本査問会に対し、虚偽の報告を行った嫌疑で拘束される。軍事法廷の準備が整うまでに、上手い言い訳を考えておきたまえ。」
それまで項垂れ、流れる汗を拭うのに必死だったヒリングの手がとまり、急な動作で立ち上がり准将と大佐の方を見る。それに合わせて今まで微動だにしなかった扉横の2人・・・MP・・・がゆっくりと中佐に向かって歩きだした。
 「そんな!、わ、わたしは、・・しかし・・・。」
彼が言おうとしている事は、その場にいる誰もが理解した。それは真実なのであろう。だが、それはこの場では全く無意味な物だった。
 MPが目の前に来ると、ヒリングは観念し手を差し出す。それは、少し前まで余裕の表情で自分を狩ろうとしていた男とは思えない。少し間違えば自分がああなっていた事は分かる。そして、彼自身が自分をそうしようとしていた事も。が、それでも彼に対し少し同情する。ここでは事実があっても、真実があるとは限らない。そして、今回のような事態が“事故”として片付けられる事も。ハワードは、それらを再認識した。
 「では、本査問会はこれにて閉廷!」
ヒリングが会議室から連れ出されるのと同時に准将が告げる。ハワードは敬礼したのち、上官2人に見ないようため息をついて退出しようとした。が、それを、呼び止めるように准将が言う
 「少佐、コーウェン准将からの伝言だ。16:00時までに彼のオフィスまで来るようにとの事だ。以上。ではな・・・。」
面倒臭そうに手を振りつつ退出していく准将に再度敬礼し、それを見送る。
 コーウェン准将は、彼等グリフォン隊のボス兼スポンサーのような存在だ。ハワードを特務部隊に引き込んだのも、MS隊の隊長にしたのもコーウェンである。決して悪い人物ではないが、あの年齢で准将の地位にいるという事は、それだけではないはずだ。
 ・・・・やはりこの査問会は、最初から話がついていたのだ。彼は自分の手駒を失わないように、あらかじめ手を回していたのだろう。その為に、彼は“自分以外の何か”を失っているはずだが、少なくても自分はそれより価値が高いという事だ。
 ・・・いや、この事に関して深く考えるのはやめよう。自分は将軍を目指す訳ではない。そうであれば、こいった権謀術は大して重要ではない。今必要なのはMSパイロットして・・・、いや隊長として部下と共に任務を達成し、文字通り生き残る事だ。
 少し考え込んでる間に、時刻は15:20時を指している。この馬鹿でかいジャブロー基地での移動を考えると、トイレに行く時間くらいはあるといった所だ。
 権謀術等たいして必要でなくても、上官の呼び出しに遅れるなどというのは、論外である。
 「まっ、懲戒免職の上、牢獄よりはマシだよな・・・・」
これもまた真実ではあるだろうが、ハワードはそう思ったというより、自分に言い聞かせるようにして部屋を出たのだった。

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2:失いし物・微笑みの力
U.C.0081.3.21  15:54
地球・地球連邦軍総司令本部ジャブロー・Aブロック第8ストリート
 現在の時刻15:54時。アドレスA−860。
 「あと6分・・・どうやら間に合ったな。」
それ自体がかなりのスピードで動く自動通路上を、さらに早足で歩いていたハワードは、腕時計の時刻と通路にペイントされたアドレスを見て安堵した。目的地のA−863将官専用個人オフィス(コーウェン准将のオフィス)まで自動通路を使えば数十秒といったところだ。
 「・!、艦長!」
が、自分より少し前方を歩く、普通通路上の男を見とめたハワードは、慌てて自動通路を降り、男に向かって敬礼を送る。
 「少佐か。初めての査問会はどうだったかね?」
その男は、ゆるりと敬礼を返し、笑みを浮かべつつ尋ねてきた。
男の名はライオネル・オールドマン。階級は大佐。ペガサス改級強襲揚陸艦1番艦グリフォンの艦長にして、特務部隊グリフォン隊の指揮官である。
 「はい、私はお咎めなしですが・・・、情報部のヒリング中佐が軍法会議にかけられる事に・・・」
 「軍法会議?査問会を経ずにか?」
今回の作戦において、情報部が犯したミスは許されるものではない。が、それでも査問会で審議もされず、担当者が軍法会議にかけられる事などありえない。
 「はぁ、今回の査問会に提出したデータを改竄した疑いがかかりまして。」
 「ふん・・・。ならば当然だな。」
 「しかし、艦長、おそらく・・・」
 「そんな事は分かっておる。が、しかし、今回の作戦における情報部の責任者は彼だ。彼はその報いを受けるべきだよ。」
 「・・・そうですね。で、艦長はの方は?」
正直、彼への同情の念は今でもあるのだが、艦長の言う通りかもしれない。彼と彼の部下が行ったいいかげんな調査の為に、グリフォン隊は4機のMSと1両のAPC(装甲兵員輸送車)を失い、11名もの戦死者を出した。特務部隊に配置されるだけあり、皆若く優秀な者ばかりである。それは、“人道的”な感情論だけでなく、連邦軍にとっても大きな“損失”といえるだろう。
 「このとおり問題なしだよ。ふぅ・・・少佐・・・君は優しすぎるな。28という年齢、連邦軍少佐という地位、特務部隊MS隊隊長という立場、どの点から見てももう少し非情な面がなくてはな・・・私が年をとっただけかな・・・。」
 「はぁ・・、あ、いえ、そんな事は、自分でも甘い面があるのは自覚しておりますが・・・。」
 「まあ、自覚しておればよい。君も准将に呼ばれているのだろう?急がなくてはな。」
現在の時刻、15:57時。すぐそこ、もう着いているといってもいい距離ではあるが、ハワードは走り出したい気分だった。

U.C.0081.3.21  15:59
地球・地球連邦軍総司令本部ジャブロー・コーウェン准将個人オフィス・秘書室
 ほぼ時間どおりに到着した2人を迎えたのは、美人で有名な女性秘書官のヘレンだった。
秘書は大佐以上の階級の者しか持つ事が許されず、そのような高級士官を補佐する秘書達も、皆士官である。その中でも、彼女は高度な軍事機密に携わる機会が多い為、その階級は大尉となっている。
また、コーウェン准将の部下には美人が多いと噂さており、本人も「羨ましければ、偉くなりたまえ」等と放言しているが本当の所は分からない。
 「大佐も少佐も、御無事でなによりです。今回の作戦では・・・いえ、今は辞めましょう。准将が・・、お待ちです。」
 多忙な准将に代わり、作戦詳細の説明などは彼女が行う為(もっとも彼女も多忙だが)、彼女と彼等は互いをよく知っている。
ブリ−フィング時にみせる彼女の能力・・・作戦本質の理解、戦術・戦略知識・・・は参謀本部の“お役人”も真っ青なもので、それでいて笑顔やユーモアも忘れないなど、准将が美人というだけで彼女を選んだ訳ではないのは明白である。(・・・まあ偶然そうだったいう可能性もあるにはあるのだが・・・)
 そのような人物であるから、グリフォン隊のクルーは、皆、彼女を“仲間”と認めており、求婚・交際を求めて玉砕した者も、両手・両足を使っても数え切れないと噂される。
その彼女が、今沈んだ顔をしている。ハワードが見たことのない表情だ。彼等が今の彼女を見たらどう思うのだろうか。
 しかし、准将の部屋に続く扉のロックを手早く外し、「後ほど熱いコーヒーをお持ちしますね。」と言った時、彼女の顔は、いつもの笑顔に戻っていた。

U.C.0081.3.21  16:01
地球・地球連邦軍総司令本部ジャブロー・コーウェン准将個人オフィス
 秘書室から、その奥にある准将の部屋に通されると、そこには3名の人物が待っていた。
立って出迎えたのは、ジョン・コーウェン准将その人。部屋の手前側のソファーに恐縮したようすで座っているのは、グリフォン隊のMSパイロット、コンフォート・ラルティーグ中尉だろう。が、ハワードには、奥のソファーに座って笑顔をむけてくる銀髪の女性の顔には覚えがない、階級は大尉のようだが・・・ちなみにこの女性もかなりの美人である。
 「来たか、待っとたぞ。査問会は無事すんだようだな。」
 「ハッ、准将のおかげであります。」
ライオネルのこのセリフは、大抵の場合たんなる常套句であり挨拶のような物だが、今回に限っては言葉の通りといえるだろう。
 「フム・・・まあとにかく腰掛けてくれ。私としても今回の事については色々と話たい事があるのだが・・・、それほど時間がとれなくてな・・・スマン。」
感慨深けな顔をして、准将自らも腰を掛けコーヒーに口をつける。
ハワードは、艦長がコンフォートの左隣り・・・コウェン側・・・に座ろうとするのを確認してから、自らは反対の右隣りに腰を下ろす。
デスクには、座席分端末が内臓されおり会議が行えるようになっている。
 「まず今回の任務における損失。」

撃破
RGM−79G ジム・コマンド:1
RGM−79SP ジム・スナイパー2:1
M−74C グレイハウンド(装甲ホバートラック兵員輸送仕様):1

大破
RGM−79SP ジム・スナイパー2:1
RX−77D ガンキャノン量産型:1

小破
RX−79[G] 先行量産型陸戦タイプガンダム:1
RX−77D ガンキャノン量産型:1

 「事実上MS4機撃墜か、何度見ても頭が痛い。」
 「はい閣下、しかし、ハード面の損失もさる事ながら、人的被害が甚大です。」
 「うむ、パイロット2名にグレイハウンドに乗っていたレンジャー第2分隊の全員が戦死だからな。」
これと同じ会話は、あらゆる場所で何度も繰り返された。ハワードが今知りたいのは、その後どうなったか、これからどうなるのかだ。
 「失礼します。B小隊のルイー大尉と、スティーブ少尉のその後の様子は・・・・」
上官2人の会話に割り込む等というのは、極めて失礼な事は分かっていたが、負傷した自らの部下の状態を聞かずにはいられなかった。
 「両名とも無事だ。スティーブ少尉は比較的軽傷で元気に歩きまわっとる。結婚するとかでな・・・、ジャブロー本部の守備隊へ転属願いを出して受理された。」
特務部隊のメンバーは、基本的に未婚の者から選抜されるが、それは任務が極めて危険である事と同時に、機密保持を徹底する為でもある。特務部隊の一部は、連邦の高官達すら知らない極秘任務につく者もいるという。
 「そういう相手がいるとは聞いていましたが・・・、彼がいなくなるのは痛手ですが、久々に聞いたおめでたい話ですね。」
ハワードは、素直に喜ぶ事にした。今回の事がきっかけで、結婚という人生の一大決心をしたのは容易に想像がつく。もしかしたら、今回の任務で少尉に中に恐怖が産まれたのかもしれない。だが、それがどうだというのだろう。奴には幸せになって欲しい、そう思う。
 「そうだな。・・・問題はルイー大尉の方でな。意識は取り戻したが、脊髄を傷めてしまっている。彼は2度とMSには乗れんだろう。だが、退役するにせよ、何処かに転属するにせよ、彼が生活に困る事は絶対にない。私が保証する。こんな事しか言えんのは虚しいがな・・・。」
ルイーは、華麗でありながら全く無駄のない機動を行う、優秀を通り越し天才と言ってもいいほどのパイロットだった。MSに乗る前は、攻撃ヘリのパイロットという事だがその頃から天才と言われていたらしい。1年戦争以来、今回のようなケースは珍しくもない。それでも、やはり虚しさが残る。
 しばらく誰も話さなかった。准将や大佐にとっては、沈黙するほどの事でもないのだが、ハワードの気持ちの整理がつくまで待っていたのだろう。しかし、その沈黙が長すぎ、誰もが話す機会を失ってしまっていた。
 その時唐突に、ヘレンが扉を開き現れた。皆の視線が集中する。
 「し、失礼しました。コーヒーをお持ちしたのですが・・・。」
彼女は少し焦った様子で、コーヒーを差し出す。
 「いやいや、謝るのは私達の方です。意味もなく、女性の顔を注視するなどと・・・失礼いたしました。ですな閣下。」
なにかのドラマで見た、どこぞの紳士のような言い草で艦長が言う。
 「うむ、大佐の言う通りだ。しかし、君はコーヒーを運んでくるタイミングまで絶妙だな。」
言って准将は豪快に笑った。ヘレン以外の全員が追随するように笑う。半分は愛想笑いだが、後半分は本当に可笑しかった。それに、場を和ませようとした2人の心使いに感謝した。本来ならこのような仕事は、自分がやらねばならない事だ。
 「ええと。はい。ありがとうございます。」
ヘレンは、かなり困惑した様子ではあるが、笑顔でコーヒーを注ぎなおす。
 「ヘレン君。それが終ったら、会議の進行を手伝って欲しいのだが時間は大丈夫かね?」
 「はい。問題ありません。」
 「では頼む。」
准将は、ヘレンが席に着くのを待ってから話を再会した。
 「戦死した第2分隊に代わる新しいレンジャー隊員は、すでにグリフォン隊に着任し、他の分隊と合同訓練中だ。」
彼女は、准将の話に合わせ、コンソールを操作し情報を次々に表示していく。ただの会議だというのに、絶妙のコンビネーションを感じずにはいられない。
 レンジャー達は、歩兵部隊から志願を募り、それを選抜・特訓した特殊部隊であり、市街戦から野外戦までのあらゆる戦場で要求される、あらゆる技能をマスターしたエリート部隊である。
 ハワードはMS隊の隊長である為、彼らを指揮をする事がない。それでも、同じ隊にいる連中とは何度も死線をくぐった為、それなりに親しい。だが新しいメンバーとなると、それほど興味が湧かないのも事実である。
しかし、グリフォン全体の指揮官をかねる艦長の目は真剣だ。彼等、1人1人の経歴や評価を熱心に見て軽いメモをとる。
 「どうだ?気に入ったかね?新人が1人入っているが、あとはこれまでずっと同じメンバーで戦ってきた連中だ。オーストラリアのとある基地から引き抜いてきた。」
 「はい。問題ありません。実戦経験も多いようですし、際立ってヤンチャな奴もいないようです。新人の方も一般部隊では実戦経験があるようですし、問題ないでしょう。」
映画やドラマではともかく、実際の特殊部隊では“際立った個性”というのは部隊にとって悪影響を及ぼす事が多い。
それが、目立ちたがりであったり独断専行を含むものなら尚更だ。そういった連中は、殆どが選抜試験と特訓の段階でふるい落とされるのだが、たまに間違って残しまう場合がある。
艦長のような“管理職”にとっては一番気を使うところであろう。
 「で、パイロットとMSの方はどのような状況ですか?」
話題がMSの事となって、ハワードは姿勢を正し准将の方を見る。
 「フッさすがに目の色が変わるな。少佐。」
 「はっいえ。申し訳ありません。」
どうやら准将や艦長は、彼の気持ちなど見透かしていたようだ。自分の慌てた様子を見て、ヘレンと銀髪の女性が顔を見合わせクスクスと笑っている。コンフォートも「しっかりして下さいよ」と目で告げる。
 「まあよい。まずパイロットは、4人中1人しか決まっていない。そしてMSの事だが、君の乗機である陸戦タイプガンダムは知っての通り、余剰部品がもう殆ど残っておらず修理もままならん。で、君さえよれば乗り換えて欲しいのだが・・・どうだね?」
 「はぁ、それは勿論かまいませんが・・・その何に乗り換えればよいのでしょう?」
そう質問した後、ハワードは怪訝な顔をしてヘレンの方をチラリと見た。何故なら、新しいパイロットのデータも、現在の彼の乗機の状態も、新しい機体の情報すらもディスプレイに表示されないからだ。しかし、彼女は楽しそうに笑うだけである。
 「君が今抱いてる疑問は、彼女が答えてくれる。紹介が遅れてすまなかったな。現在、新型MSテスト開発部に所属し、明日付けで君の部下となる、エレナ・ハルテンバルグ大尉だ。」
 准将にさされた銀髪の女性が立ちあがり敬礼する。
 「エレナ・ハルテンバルグ大尉であります。明日からよろしくお願いしますね、少佐。」
ハワードは、その時の彼女の微笑みを素直に美しいと思った。
だが、それと同時に准将やヘレンの笑顔が何故か下品なものに見えたのだった。

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3:与えられし力
U.C.0081.3.21  16:35
地球・地球連邦軍総司令本部ジャブロー・コーウェン准将個人オフィス
 「君には世話になってるからな。ここらで褒美をだしたいと思っているのだが・・・、あまり出世されるとMSパイロットでいられなくなってしまうからな。そこで、我が軍の最新鋭MSを君の部隊に回そうと思った訳だ。」
 「ありがとうございます。・・・しかし、79SP以降、我が軍が新型を開発したという話は聞きませんが・・・」
 地球連邦は、1年戦争の戦後処理と復興に全力を注いでいる。しかし、総人口の50%以上を失っている状況では、その作業も順調とはいえない。
また、ジオンの残党が各地に潜伏している為、戦争が終った今でも軍の整備・拡張を進めなければならない。
 一般的に、連邦軍はジオンに対し圧倒的な物量で勝利したといわれる。だが、それは必ずしも正確とはいえない。
確かに、軍全体の規模でも、主要な作戦に投入された戦力にしても、連邦のそれはジオンよりも強大だった。しかし、その戦力も各々の戦闘で失われている上、地球圏全体を守るには不足している。特にMSは、量産が開始されたのが戦争末期の為、総数ではジオンのそれに遠く及んでいなかった。
そのような状況であるから、新型機の開発作業は進められず、既存のジムを量産しているのが現状だ。もっとも、後期生産型のジムとそのバリエーション機は、多くのジオン系MSよりも優秀である為、新型がそれほど必要とされなかったともいえる。
 「確かに、正式採用されている機は79SP以降ない。だが、いつまでもジムを使い続ける訳にもいくまい。エース用の高性能機や、次期主力MSの開発は既に始まっているのだ。」
 「・・・と言いますと、試作機の実戦テストを行うという事でしょうか?」
パイロットにとって、最新鋭の高性能機に乗りたいというものほど強い願望はない。それは、ほとんど本能ともいえる。だが、それがテスト中の試作機となると話は別だ。当然と言えば当然だが、試作機は信頼性が十分とはいえない。そして、それは兵器としての致命的な欠陥を意味する。
 「まあ、そういう事だが・・・新型と言っても既存MSの改良機だからな、信頼性も上がっている事はあっても落ちる事はない。そうだな、大尉?」
 「はい、その通りです。今回の改良では信頼性の向上にも主眼がおかれています。」
 「と、言う事だ問題あるまい?」
 「ハッ」
答えつつハワードは、艦長の方を伺う。MS隊の隊長は自分であっても、部隊全体の指揮を執るのは艦長である。もっとも、准将が正式な命令として宣言すれば、艦長も異を唱える事はできないが・・・。
 「・・・准将、失礼ですが・・・・閣下に試作MSを配備する権限がおありなのでしょうか?」
軍隊とは良くも悪くも縦割り行政である。たとえ将官といえども、第3地球軌道艦隊の所属であるコーウェンには、試作機の配置に対する決定権はない。まあ、将官ともなれば、無視できない形の要請を、その担当者に伝えることは可能ではあるのだが・・・。
 「フフン、実はな、私は4月1日をもって少将になる。そして、新たに発足する次期主力MS開発計画の指揮を執る事になった。エレナ大尉に対する人事もそこから、という訳だ。」
 「おお!それは、おめでとうございます。閣下!」
 艦長が、祝辞を述べた後、その場にいた全員が「おめでとうございます」と繰り返す。
やはり、これも先程と同じ挨拶のような物ともいえる。しかし、自分達のボスが出世するのは素直に嬉しいし、その出世は部下である自分達にも返ってくる・・・今回の新型MSのように。また、コーウェンのように、現場を知る者が上に行く事は、連邦軍にとってプラスとなるだろう。
 「となると、我隊は実験MS隊となる訳でしょうか?」
 「いや、“そういう側面も持つ事になる”というだけだ。ただし、この装備を運用するのは君たちを含めて、2個中隊といったところだ。当然君たちの運用実績は、これからの開発・採用に向けての重要な判断材料となる。他に質問はあるかね?」
その答えに納得した訳ではないが、こんなところで意地を張っても意味はない。
 「いえ、ありません。」
 「では、エレナ大尉、MSの説明を頼む。」
 「はい。・・・ではよろしいでしょうか?」
エレナは軽く皆を見回してから、試作MS群の解説に入った。


MS−14F2 ゲルググ・マリーネF2タイプ(ゲルググM2)
 「これは、旧ジオン軍のゲルググ海兵隊仕様の機体を改修した機体です。
センサーやメイン・コンピューター等の電子機器と、操作系を連邦製の物に交換し、装甲パターンの再配置により軽量化と実質的な装甲強化を実現しています。またそれに合わせ、各スラスター、アポージモーターにも若干の調整がなされています。
ゲルググ自体が、ジムを超える基本性能を持つ高性能機ですし、なかでもF型は、宇宙空間と重力下の両方で高い運動性能を発揮できるよう再調整された機です。その機体に、連邦の技術を導入する事で更なる運動性を実現しています。」

MS−14JG2 ゲルググ・イェーガー2(ゲルググJ2)
 「同じくゲルググの最終量産型で、狙撃型といわれる機体に、先程のマリーネとほぼ同等の改修を行い、ビームサーベルを搭載した機体です。
 元となったゲルググJは、高精度・高火力のビームマシンガンを搭載し、高い機動性を持つ等、ジオンの量産型MSの中では最強と言われています。また、そのスペックはセンサー系を除き、我軍のジムスナイパー2をも凌駕しています。」


 「ジオンは連邦より30年進んでいる。・・・・その言葉の真偽はともかく、我々が彼等から学ぶ事はまだ多い。ジオンの技術を獲得するには、その技術の集大成である14型の改修と評価試験が一番の早道・・・という事だ。まあ、性能的には申し分ないのだが、精神的な抵抗があるかもしれん、部隊に組み入れる場合は注意してくれ。」


RGM−79AS ジム・アサルトカスタム
 「この機は79SP、ジムスナイパー2の機体をベースに突撃戦用に改修した機体です。
専用のスナイパーライフル、狙撃用複合照準装置、大型冷却ユニット等を廃除する事で得れたジェネレーターの余剰出力と重量でアクチュエーターを強化し、運動性能の向上と機体構造の強化に成功しています。
また、その機動性を落とさない程度の装甲強化と、バランス調整の為のスラスター強化もなされています。
これは、かねてより実戦部隊から、「79SPは、部隊最高の機動性を持つにもかかわらず、スナイパーライフルを使用してのサポートでは、その性能を活かしきれない」と、いう報告を元にして改修されたものです。 実戦部隊では、ノーマルの79SPにマシンガンを持たせフォワードとして使用しているそうですが、この機が完成し採用されれば、そのようなミスマッチはなくると思われます。」

RGM−79SPL ジム・ライトアーマー2
 「この機は前大戦で多くのエースを輩出した79L、ジムライトアーマーを、79SPをベースにして再設計された機体です。
79ASと同じく、79SP専用装備を廃除しアクチュエーターを強化した上、不要と思われる装甲を徹底的に廃除し大幅な軽量化に成功。メインスラスターは79ASと共用ですが、限界値を高く設定した為、最高出力は増しています。
完成した機体は、機動性のみならずあらゆる性能において、79L型を大きく上回ります。」


 「この2機種は、君等の運用結果次第ですぐにでも量産し、エースパイロット・特務部隊等、第一戦の部隊に配備される。さらに、それら部隊の結果次第では、79AS型は、一般型のジム全てを更新する可能性もある・・・。まあ、次期主力MS候補ともいえるが、コストが高すぎて今の連邦では採用は難しいかもしれん。・・・で、最後の機だが・・大尉たのむ」。
 「はい」


RX−78NT−2 ガンダム・アレックス2
 「この機は、前大戦末期に開発された、ガンダム・アレックスを限界性能追求機として、改装した機体です。
アレックス開発の経緯は、一部極秘となっており公開されていませんが、当時噂されていた、ニュータイプ専用のガンダムとして開発されたとの事です。・・・これが、アレックス及び、アレックス2のデータです。」

 それまでの機体は、スペックの概要しか表示されていなかったのに対し、アレックスの場合はあらゆる情報が複数のウィンドウに表示されていく。
それには、連邦MSの試作段階からパイロットとして活躍するハワードも知らない用語や、噂としてしか伝わってこない新技術が名を連ねる・・・マグネット・コーティング、全天周囲モニター、リニアシート、チョバムアーマー、スラスターバインダー・・・・・・

 「ベースとなったアレックス自体が、連邦の技術力の粋を結集して作れていますので、圧倒的な運動性能と反応速度を実現し、数々の新システムを搭載しています。ただ開発を急ぎすぎた為、ハードとソフト、新システムのマッチッチングが完全ではなく、その性能を十分に発揮できませんでした。
 その問題に対するアレックス2の主な改修点は、基本性能向上の為の、ジェネレーター、スラスター、アクチュエーター、センサーの強化・調整と、電子機器とソフトウェアの更新。
さらに機動性向上の為に、バックパックにスラスターバインダーを追加、サイドスカートのアポージモーターもスラスターレベルに増強しています。
また火力増強の為、左腕部の90mmガトリングガンをビームガンに変更、右腕のガトリングガンも若干長銃身化し装弾数も増加させています。
この変更と同時に、前機で不評であった腕部武装の完全装甲・オープン機構を廃止し、部分装甲に改修しています。
同じく、各スラスターが封印される上、重量がありすぎる等、実用的でないとされたチョバムアーマーも大幅に改良されており、高い機動性を維持しつつ、各関節部やコクピットブロックを保護する事に成功しています。」


 「と、いう事だ少佐。アレックスは、同じガンダムでも君の乗っている79[G]とは、全く違う機体だ。現在、我軍が持つMSの中で、“最強の機体”と言ってもいい。少なくても、“最高の性能を持つ機体”である事は間違いない。それゆえ、この機を任せられるパイロットは、私も幾人しか知らない・・・君はその内の一人だ。できれば君に乗ってもらいたいと思っておる。」
 「・・・ありがとうございます。しかし、限界性能追求機であるならば、テスト専用機として評価試験を行うのが方がよいのでは?」
これほどのMSのパイロットとして、自分が選ばれるのは嬉しいと思う。・・・しかし、データを見る限り意欲に富すぎ、実戦向けとは思えない。・・・いや、単に自分に扱う自信がないだけか・・・。
 「それは、この1年で十分に繰り返された、エレナ大尉の手によってな。
これからは、実戦における高性能機での任務達成率の変化や、実際の戦闘で必要とされる性能の算出が目的となる。・・・まあ、君の言いたい事も、分からんではないがな。」
 「もし、私が・・・・アレックスへの搭乗を拒否した場合はどうなるのでしょうか?」
 「少佐、言うまでもないが、これが“命令”であれば、君は拒否する事などできんよ。ただ、先にも言ったとおり今回の件は、君達の働きに対する私からの“礼”ととってもらってよい。どのMSで部隊を編成するかは、一切をまかせる。・・・そろそろ、時間だ他に質問がある者はいるかね?」
言って准将は、辺りを見回す。
 「・・・質問ではないのですが・・・、今回、新型機としては紹介しませんでしたが、最新LOTの79SP及び79Gの両機も、ソフトウェアとインターフェイスの更新により、反応速度、運動性能、射撃精度が若干向上しています。以上です。」
 「他には・・・・・・ないようだな。ではハワード少佐、今週中にも残りのパイロットを決定し、データを届ける。それまで、各MSの能力を比較検討しておいてくれ。大尉、少佐のサポートを頼んだぞ。以上だ。」
本当に時間がないのだろう、准将は、かなりの早口で話す。ヘレンも、モニターや端末の電源を落とし始める。
 「せかすようで申し訳ないが・・・・。」
 「ハッ、それでは失礼します。」
准将の意図をいち早く察して、艦長が敬礼し応える。皆もそれに続いた。
 忙しそうに身支度を整える准将と笑顔で見送るヘレンに、それぞれがもう一度あいさつをしつつ、部屋出る。

U.C.0081.3.21  17:51
地球・地球連邦軍総司令本部ジャブロー・Aブロック第8ストリート
 部屋を出た4人は、とりあえず・・・といった感じで、士官の居住区画のあるBブロックに向かって歩き出す。
 「とりあえず皆、ご苦労だったな。少佐も、査問会からの直行で大変だろうが、・・・まあがんばるように。それから、エレナ大尉よろしく頼むぞ。」
 「ハッ」
2人は足を止め、敬礼する。
 「私はこれから、ロイマン大尉に会って新メーンバーとの訓練を見てくる。皆は、新型MSの話に花を咲かせていてくれ。あと、MSの編成が決まったら、一応報告してくれよ。」
艦長は、そういうとエレカの駐車エリアに向かっていった。このままエレカで、ロイマン大尉・・・レンジャー部隊の隊長・・・のいる地下訓練施設に向かうのだろう。
 「ふぅ、では大尉、改めてよろしく。早速、新型について詳しく聞かせてもらえるかな?」
 「はい。」
2人は疲れていながらも、笑みを浮かべて会話する。
艦長や准将という、皆に共通した“目上のあなどれない上官”がいなくなった時、急に力が抜け、仲間意識が高まっているのだ。
 「新型ですか・・・、私は77Dも結構気に入ってるのですが。」
 「さすがは元戦車兵だな・・・でも、さっきのスペック見ただけでも相当な物だったろ。」
 「それは、そうですが・・・。」
コンフォートの方は、先程と変らない硬い表情で、そう口にする。
パイロットは新型機・高性能機に憧れるもの・・・けれど、長い間命を共にした愛機に愛着を持たない者などいない。新型機は、嬉しいが愛機から降りるのは、やはり寂しいものだ。今のコンフォートは、嬉しさより寂しさが勝っているのだろう。
 「コンフォート大尉は・・・、新型が気に入らなかったようですね。」
 「あ!いえっ、そういう訳では!」
寂しそうに言うエレナに、彼は慌てて釈明する。新型機の開発に携わっていた大尉の機嫌を損ねたと思ったのだろう。
これから同じ隊で働く事になる上官(しかも女性)の機嫌を損ねる事など、彼には・・・。ハワードは、その時になってようやくエレナがコンフォートを中尉でなく、大尉と呼んだことに気づいた。
 「解ってます。冗談ですよ。」
エレナは、実に可笑しそうに笑って応える。コンフォートは何か悲しい顔をし、ハワードは少し頭の痛い思いをしたが、それは胸にしまっておく事にする。
 「コンフォート、お前、もしかして、大尉に昇進したのか?」
 「あ、はい。正確には、明日付けで大尉となります。・・・えと、少佐が査問会にかけられたというのに・・・・」
彼は、姿勢をただし応えた。
 「そんな事は気にしなくていいが・・・。しかし特殊任務担当といっても、たかだかMS2個小隊に、大尉が2人に少佐1人か・・・・少し大袈裟な気がするな。」
 「これも准将なりのお礼という事のようです。隊長達がくるまでの間に、「今回はすまなかった」と准将に謝られましたよ・・・。」
どうやら生真面目な彼が、いつもよりさらに恐縮していたのは、そういう理由らしい。
 自動通路に乗った彼らは、AブロックとBブロックの境に到着している。
 「少佐、これから、どうしましょう?新型のデータは、とりあえずこのディスクに収まっていますが、テスト中の動画データの大半と、シミュレーターは、テスト開発部まで行かないと・・・」
 「いや、それは明日にしよう。今日はもう一度、各機のスペックと、大尉個人の私観というか“お勧めのポイント”を聞かせてくれ。」
 「了解しました。・・・・でも、よろしいのですか?」
 「ああ、問題ない。」
ハワードはそう言って、腕を差し出した。
そこには、腕時計がはまっている。現在の時刻、18:04。
 「定時は過ぎた。」
コンフォートは困った顔をし、エレナは目丸くした後クスクス笑う。
久々の冗談。それができるほどには、落ち着いたようだ。・・・もっとも、あまり面白い物ではなかったが・・・。 

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4:再編1
U.C.0081.3.22  14:05
地球・地球連邦軍総司令本部ジャブロー・テスト開発部
 メインカメラを回してみても、モニター上にターゲットの姿は現れない。
おそらくMSを森林の中で伏せさせ隠れているのだろう。その証拠に赤外線放射が周囲よりも高い地点がある。
 「やってみますか・・・」
コンフォートは、スラスターを吹かし77Dを跳躍させると同時に、熱量の高い森林部に向けマシンガンを乱射する。当てるつもりではない、ターゲットを燻りだす為だ。
77Dが手にしている90mmマシンガンは、MS用の火器の中では小物に分類される。しかし、戦車砲並みの砲弾を連続して受け続ければれば、MSも無事ではすまない。
 予測どおり、白い影が森から飛び出してくる。この状況では、それ以外の手はない。
しかし、その速さが普通ではなかった。重力下でのMSの跳躍などたかが知れたものなのだが、その機体は弾丸のような速度で駆け昇っていく。
 「非常識な!」
コンフォートは、そのあまりの速度に毒づきながらも、空中で後退させつつキャノンの照準を合わせる。自らも空中移動しながら、高速で移動するターゲットを捕らえるのは容易ではないが、熟練パイロットである彼はそれをやってのけた。
 ロックオンを告げる電子音が鳴る。彼はその照準をターゲットの進行方向上に僅かにずらしトリガーを引いた。
自機の癖やターゲットの性能を見越した240mmキャノンによる必殺の一撃。
発砲の衝撃で機体が仰向けに傾くが、両腕を後ろ両足を前に振り、バックパック上面のアポージモーターを点火する事で、地面に対し機を垂直を保つ。
 新米パイロットであれば、無様に足掻き失敗していたであろうその動作を、殆ど無意識にこなしつつも彼は舌打をした。何故なら、ターゲットが砲撃を回避したからだ。
敵機は、空中にありながら機動曲線を急激に変えている。これほどの機動は攻撃ヘリにも不可能だろう。
 コンフォートは、機体を右にスライドさせながら着地させ、とっさにその場に伏せる。
と同時に、センサーが機体後方に異常な熱源が発生した事を告げた。ビームライフルの赤い光が、77Dのすぐ上を通り過ぎ着弾したのだ。
彼は、吹き出る汗を拭うまもなく、中腰に近い姿勢のまま機体を走らせる。

 「さすが大尉、キャノンであんな機動を・・・。」
そのパイロットは余裕の表情で呟き、機を空中に浮かべたまま77Dの後方位置に回り込ませつつ、90mmガトリング砲のトリガーを引く。
最初の数発は地面をえぐっただけだったが、その砲火はすぐに修正され77Dの装甲を叩く。
 機動性が低い変わりに重装甲を持つ77Dは、90mm弾程度であれば数発の直撃にも耐えられるように設計されている。
しかし、それは正面装甲に限っての話であり、背面を撃たれたコンフォート機は、一瞬をおいた後に爆光に包まれた。
 「コンフォート大尉、エレナ大尉、シミュレート終了。2人ともあがってくれ。」

U.C.0081.3.21  14:32
地球・地球連邦軍総司令本部ジャブロー・テスト開発部・ラウンジ
 テスト開発部にあるシミュレーターは、コクピットの代用や戦艦搭載型の簡易シミュレーターと違い、機体の挙動に合わせて動作し、限定的でありながらGも体験できるようになっている。このようなシステムは、コストがかかる上にかなりのスペースが必要となる為、連邦全軍の中でも数台しか存在しない。
その貴重で巨大な機材を見下ろすように設置されているラウンジは今、会議室と化していた。
 「つまり、サイドスカートのスラスターだけでも、瞬間的に機動方向を90度変えられる訳か・・・。」
書類の束やシミュレート映像を見比べながら尋ねる。
 「そうです、ただ、重力下でこれをやりすぎると、さすがに負荷がかかりますが。」
 「フム・・・・で、戦ったコンフォートとしては、アレックスはどうだ?」
 「あれは、化け物ですよ。61式で、初めてザクと戦った時と同じ感覚です。」
 「私が乗ってる時もか?」
 「隊長とは長い付き合いなんで動きも読んでいたつもりでしたが、今回ことごとく想像を上回られましたよ。エレナ大尉には90mmすらかすりもしませんし・・・。」
 「まあ、パワーのある分、動きの選択肢が増えるからな。」
そう言うと、79[G]との推力比較図を表示させる。
 「隊長こそ、この化け物はどうです?」
 「早すぎる、というのが正直な感想だ。私のデータも移植して最適化かけてあるそうだが、それでも抑えて動かさんと跳ねすぎる。」
 「普通は、リニアシートに順応するだけで一月はかかるんですよ。あれだけ使える、少佐ならすぐに手足にできますよ。」
長期間アレックスに乗ってきたエレナは、ハワードの適性の高さを評価する。
 「でも、やはり大尉が乗るべきだと思うのだが・・・。」
 「テストパイロットの私では、“実戦における高性能機での任務達成率の変化”や“実際の戦闘で必要とされる性能の算出”なんて計測できません。それに部下が隊長より良い機体に乗るわけにはいかにでしょう。」
 「いや、実戦において隊長機がすぐに分かるのは、デメリットの方が大きいような・・・。」
士官や部隊長には、一般兵より高性能の機体が配備される事が多いが、これは実際の戦闘においては必ずしも有効とは言えない。何故なら、隊の指揮官が誰かを宣伝しているようなものであり、戦闘は指揮官から潰すのが定石であるからだ。
 「と、いうことは少佐、私ならば敵の集中砲火を浴びても良いと?」
 「ああ、いや、そういう事ではなく・・・・」
 「それに准将は、少佐でなければ、アレックスの搭乗許可は出さないと思います。」
 「・・・・まあ、喜んで良いのだろうが・・・。」
ハワードは、言葉とは裏腹の顔で呟きながら、アレックス2のマニュアルに目を落し、一つため息をついた。

U.C.0081.3.21  14:31
地球・地球連邦軍総司令本部ジャブロー・地下ドッグ・グリフォン艦長室
 「なるほど、それならこの経歴や腕前にも納得がいきます。」
 『それとこの件は今でも機密扱いだ。情報は君の所で止めておいてくれ。』
 「了解です、で他のパイロットはどういった状況でしょう?」
 『その事だが・・・、少佐に独立愚連隊をまとめられると思うかね?』
 「可能・不可能でいえば可能だと思いますが、あまり適しているとは思えません。」
 『やはりそう思うか・・・。」
 「そのような部隊になりそう、という事でしょうか?」
 『難しいところだな。そうならないように努力しているが、その可能性も十分にある。』
 「分かりました。その件につきましては、私からも一応話しておきましょう。」
 『うむ、頼んだぞ。パイロットが決まりしだいまた連絡する。以上だ。』
ライオネルが敬礼を返すと同時に通信モニターが落ちる。
 「我々が楽をする事などありはしないか・・・・」
振り向いた窓には作り物の夕日が浮かんでいた。

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