アーマードコア
1:新天地

1:新天地
地球・某大都市直営アリーナ・ラウンジ
暖かい照明にアンティークな調度品。落ち着いた店には何組かの人影がある。
そして、その中の一組。
「本当に行くのか?」
アリーナランキング第5位、デニス=キリシマ。搭乗AC:神龍。
「ああ・・・、お前達はフライトナーズか・・・」
アリーナランキング第1位、グレイブ=サナレット。搭乗AC:パラディン。
「そうだ。政府つきってのが、ちーと気にいらないが、レオス=クラインの部隊だぜ?あんたも火星で戦いたいのなら・・・」
「馬鹿言うな。戦いたって、役所の部隊じゃ仕事も選べんだろうが。」
「馬鹿はあなたでしょう。コンコード社の火星アリーナなんかに登録なんてしたら、移送費や手続き料いくらとられると思ってるの?それこそ仕事なんて選んでる暇はないわ。」
アリーナランキング第3位、エミール=バウワー。搭乗AC:セラフ。
彼らは皆このアリーナ随一のレイヴンであり、ACチームジャスティスソーズのメンバーとして勇名を馳せている。
「そう、それ。その点、フライトナーズならタダで火星までいけるぜ?それに、ランカーなら自分のACを持ち込んでもいいて話しだしな・・・。その上、補給も修理も向こう持ちだ。良い事だらけだろうが・・・政府つきって事以外は。」
チームで最も若いデニスは、一目で東洋系とわかる肌と黒髪を持つ。もっとも、この時代人種という概念はほとんどうしなわれており、そういった意味で差別される事は、あまりない。
「だから、それが問題なんだろ?だからといって今の地球には、興味無いしな。それに、もう登録はすませた・・・。」
チームのリーダーであるグレイブは、短く刈上げた銀髪の白人男性で、チーム内では最年長でもある。それでも20代の中後半といったところだが・・・。
「・・で、いくらかかったの?」
そして、チーム唯一の女性であるエミールは、アイスブルーの瞳を閉じて尋ねる。
「・・・・2000000クレジットだ。」
「200・・・。」デニスは驚きの声を上げる。
が、それも無理は無いだろう。2百万クレジットといえば、最高ランクのパーツを組み合わせたACを2機買える金額であり、普通に暮す人にとっては、一生遊んでも、到底使いきれない金額なのだ。
事実、今のアリーナに登録する時、彼らは1万ほどしか払っていないし、その1万でも普通乗用車が買える程の金額だ。
「そう・・・、それだけのお金、ACでも売らないと作れなかったでしょう。」エミールはある程度予想していたらしいが、それでも閉じた目を開いている。
「ああ、最低限のパーツは残してあるが、ヘッドのメモリ以外は新人も使わないような物ばかりだ。」
通常ACは、各レイヴンが兵器メーカ等が販売しているパーツを組み合わせて自分で製作する。
基本的にはどのメーカーのパーツも互換性があり、足はA社で胴体はB社といった組み合わせでも問題なく動作する為、レイヴンは自分の戦術や好みに合わせたパーツを選択する事ができる。
グレイブの乗機パラディンは、重装4脚と言われるタイプのACで基本的に高価なパーツで構成された、高性能なACであったが、今の機体は、似ても似つかない、2脚中量型である。
それも、安価な物を組み合わせた性能の低い機体で、パイロットの癖や戦闘データを記憶したメモリチップ以外、パラディンの面影はない。
「そこまでして・・、フライトナーズは、そんなに嫌なの?地球に残る気も無いわけ?」エミールは、グレイブをじっと見つめる。
「・・・ああ。」グレイブは、エミールから視線をはずし答える。
「・・そう。じゃあ、また何処かで会いましょう」再び目を閉じた後、立ち上がったエミールは、そのまま店を出て行く。
「あっ!ちょっと、姉さん! ・・・・おい、いいのかよ!?行っちまうぜ!今からでも遅くないって!追いかけるとか、止めるとか、フライトナーズに入るとか何でもいいから早くしろって!」デニスは慌てて、ぶちまける。
「いや、いいんだ。ジャスティスソーズは、今日で解散だ。」デニスの方を見ようともせずに、グレイブは答える。
「なんだよそれは!?・・・・・こんな事で終わりなのかよ・・・」しばらくの間グレイブを睨みつけるように見つめていたデニスだが、やがて諦めたようにうつむいて黙り込む。
人間としてもレイヴンとしても若い彼にとっては、ジャスティスソーズが全てと言っても良かった。
家族もいない彼にとって、レイブンとしての生き方やACでの戦闘技術を教えたくれた2人は、兄であり姉であり両親ともいえる。
ついさっきまで、明るくふるまっていたのも、グレイブの心変わりを信じて無理やり演じていたに過ぎない。
だが結局は、その全てが今、無くなった。
「・・・そんな顔するな。エミールは、”また何処か”なんて言ってたが、俺たちは同じ火星に行くんだ。会おうと思えば会えるさ。」
「ああ、そうだな・。でもエミールさんは、どうすんだよ・・・あんたらは・その・・・っ!・・・すまない。」デニスは、その後しばらくして店を去っていった。
だが、グレイブはその日帰る事無く飲み続けたのだった。
火星・某大都市高級マンション・3012号室
「テストだと!?俺は、トップランカーだぞ!!」
コンコード社の用意した、火星の住居は比較的快適であったが、今入った連絡は極めて不快なものだった。
「ですがそれは、地球での話。私共は、あなたの腕前やお名前を存じ上げません。そのような方に突然、重要な仕事を任せるわけには・・・。もし、あなたが無様な失敗をすれば、我々も信用を失ってしまいます。」コンコードの社員は、極めて冷静に答える。
「アリーナの映像や、一部とはいえ戦闘データまで提出させておいて、何を言っている!」
「あなたの場合、Aプランでのご登録ですね?ご存知の通りAプランでは、プラン対象者もしくはその搭乗ACが、作戦行動中に行動不能になった場合、我社の緊急対策チームもしくは登録レイブンがその回収にむかいます。・・・つまり、お金がかかる訳です。」
「・・・・分かった。」コンコードの、いやこの男の金に対する異常な貪欲さにグレイブは呆れた。
「お分かり頂けましたか。それは、なによりです。では、明日はよろしくお願いします。」今日も最後まで営業スマイルを崩さなかったこの社員は、確かに優秀な営業マンと言えるかもしれない。
火星・ジオサテライトシティ・高速道路網
「試験と言う割には、えらい大掛かりな設定だな・・・」
「今回のテストは、実戦そのものだ。ターゲットは、AC用パーツで武装したMTを用い、シティの施設を無差別に攻撃したテロリストだ。彼らの生命に配慮する必要は全く無い。なお、君がいかなる状況に置かれようとも、私は一切手出ししない・・・以上だ。」
火星アリーナランキング第10位、ストラング。
今回の"試験"に、試験官として随行するこのレイブンは、その熟練した腕で安定した性能の重量型ACツェーンゲボーテを駆る時、つけ入る隙は全く無くなるという。
「分かりました。・・・もしも、流れ弾で道路や施設を破壊してしまった場合どうなります?」
50歳近い年齢で一戦のレイブンとして活躍する大先輩に、グレイブは敬語(らしき物)を使って質問する。
「意図的に破壊したのでない限り、ある程度の被害は問題ない。・・・周辺施設に配慮する余裕などあるのか?」
「聞いてませんか?私はこれでも、地球のトップランカーだったんですよ。」グレイブは、現在10位の位置にいるストラングに若干得意げに答える。
「だが、ナインブレーカーの称号は持っていないようだ。」
「前任のナインブレーカーが私と対戦するより先にに火星に行ったのものでね。」
「彼の事は知っているよ。確かバーグマンだったな?・・・彼は死んだ。」
「・・っ!?バーグマン・・が?」
バーグマンの腕は良く知っていた。ナインブレーカーの称号は伊達では無く、高い機動性と攻撃力を両立した強力なACを駆り、対戦相手のレイブンが、彼の姿をガンサイトに捕らえる前に撃墜されていく姿を何度も目にしている。
戦って勝てないとは思っていなかったが、苦戦は免れない、間違いなく一流のレイブン・・・だった。
「フッ・・ショックを受けているのか?彼は確かにいい腕をしていた。だが、多少不運が重なってな。が、レイブンにとってそんな事が言い訳にならない事は、君も知っての通りだ。このような事でショックを受けるようでは、君も彼のように墜ちるぞ。」
「・・・・」
「さあ、君が空を駆けるか猛禽かどうか見せてもらおう。」
「了解!」
その言葉と同時に、フットペダルを踏み込みスロットルを絞り込む。その瞬間、強いGがグレイブの体をシートに押し付けるが、その力は彼が期待していた物には遠く及ばない。
「くっ、これが2足中量のブーストか!?こんなもので・・・つっ早速おでましか!」
メインディスプレイ上に、逆関節の武装MTが現れる。
エムロード製MTシャフター、火力・装甲・機動力どの能力も高いとは言い難い量産機ではあるが、そのコストパフォーマンスゆえ、あらゆる組織で採用されている。
普段のグレイブであれば、歯牙にもとめない相手ではあるが、今のパラディンは基本フレームはおろか登載している火器すら最も安価な物であり、それほど容易に破壊する事はできない。
「この火器じゃ、無駄弾か?」
機体を左右に振る基本的な回避運動をとりつつ、ライフルで射撃していたが、火力が低すぎ破壊に至らない為、接近してのブレード攻撃に切り替える。
が、回避運動をやめ、最短コースで敵MTへと加速を始めたとたんパラディンンに弾丸の雨が降り注ぐ。
「ちっ!加速が低すぎる。」
通常ブースターでの接近は危険と判断したグレイブは、スロットルレバーをレッドゾーンに押し込みオバーブーストを起動させる。
それまで3Gに満たなかったGメーターが6を超える強烈な加速だ。それを見たMTは、急いで後退を始めるがその距離は一瞬で詰められていく。
「消えろ!」
ライフルの数倍の破壊力を持つ(といってもこれも最も安価な物であるが)ブレードの攻撃を受け、敵MTが一撃で破壊される。
「装甲・残弾・電子兵装・熱・・・」
パラディンが大きなダメージを受けていないか、機体チェックをこなしていたグレイブは、エネルギーゲージがレッドラインに突入している事に気付く。
「これ位で、レッドゾーンだと・・・?」
「どうした、言い訳しかできないのか?君は、このまま終わっていくのか?」
唐突に、ストラングからの通信が入る。
今の台詞からすると、全て聞かれているようだ。
「冗談じゃない。機体の性能が分かったらこっちのモンだ。今は、エネルギーが回復するのを待っているだけです。」
相手から返事は返ってこない。実力は行動をもって示せと言う事だろう。
「そろそろ行くか・・・。」
エネルギーの回復を確認したグレイブが機を発進させると、MTが次々に現れるが、いずれも先程と同じシャフタータイプで、同様の戦術を用い簡単に破壊していく。
近くのMTを全て破壊し、再度機体のチェックをかけている時、またも通信が入る。
「なかなかやるようだ。だが気を付けろ、リーダー格の機体が今そっちに向かった。確実に片付けろ。」
「了解。」
「・・あれか・・・。」
10年近くレイブンとして活躍してきたグレイブも見た事のない機体である。おそらくは、カスタムメイドのMTなのだろう。
「だが、所詮はMTだ!」
相手の射程外ギリギリの距離を維持したまま、ミサイルをロックオンし連続発射する。
これはアウトレンジ戦法と呼ばれ、火力の劣った相手を撃破するのに最も効率の良い戦法である。
しかし、この戦法は乗機の機動性が相手のそれを上回っている時にしか使用できず、長射程の火器を装備する必要がある為、AC同士の対戦では、専用のスナイパー型ACを設計する必要がある。
レイブンの放つミサイルが何発も直撃し、装甲が剥げ落ちていく。
「くぅ!、こんなところで死ねるか!」
パイロットが、素早い動作でオーバーロードコマンドを打ち込み、機体を加速させるとMTとは思えない機動性で、敵ACに向かって突撃を開始する。
「お遊びは終わりだ!」
展開したレーザーブレードに膨大なエネルギーが流れ込む。
狙いはACのコア・・・コクピットのある部分だ。いかに装甲の厚いACであろうと、リミッターをカットしたブレードでの突撃には耐えられない。
「甘い!」
グレイブは、ブレードを突き出しつつ急接近してくるMTを、反転しつつその直前でかわす。
「終わりだ」
その体勢のままブレードを発動させ、切りつける。
「何!?まだ・・・・!」
さらに攻撃を加えようとパイロットがMTを反転させた時、既に振り下ろされつつある敵ACのブレードが目の前にあった・・・。
「・・・よかろう・・・。今日から君は”レイヴン”だ。」

