たかが風邪、されど風邪 [04.05.04]


 あれは、まだ2月の寒い時期だった。
 ちょうど、かかりつけの医者に常備している薬をいく用事があって出かけていったのだが、待合室にいる間に、なんだか身体がだるい、熱ぽいなぁと感じた。
 体温計を借りて、熱を測ると、どうやら37度3分という微熱状態だった。まぁ、たいしたことないなと思いつつ、一応、医者がごく普通の風邪薬も一緒に処方してくれた。

 その日の夕方から、突如として熱が上がり始めたのだ。週末である。いまさら、他の医者にも診てもらえないし、それでも、医者からもらった薬をきちんと飲んでいれば収まるだろうと思ったのだが、晩には38度を突破してしまった。
 翌日も一日中、38度台の熱は下がる様子もなく、だからといって救急車を呼ぶほどのことでもなく、一日寝て過ごした。
 日曜日になっても、まだ熱は高かった。明日になればまた医者に行こうと決めてはいたものの、夕方になって39度台にまで熱が上がっていた。
 これほどの高熱になれば、医者が処方する強力な座薬の解熱剤を使ってもいいほどだし、熱を下げるということが急務だと思った。この時点で、本当は、休日診療をやっている病院に行くべきだったろう。しかし、ただの風邪ごときで、大げさなことはしたくないという思いがあった。
 代わりにやったことといえば、市販の薬を医者からもらった薬と重ね飲みをしてしまたことだ。医者からもらった薬の成分には、どうも 解熱効果がある成分があまり含まれていないのではないか、そう思ったのだ。それを補うべく市販薬のうち、解熱効果を特に謳っているものを選んで飲んでみた。
 さらに、それを夕食後だけでなく、就寝前にも飲んだ。その成果は、翌朝に現われた。平熱まであっさり下がったのだ。

 熱が下がってしまえば、医者に行こうという気にはなれず、放置していたのだが、それでも咳が出て止まらないという状態が二週間ほど続いた。といっても、始終、咳き込んでいるというわけではなかったので、気にはなりながら、喉が荒れてるのかなという程度の認識で、うがい薬くらいでごまかしていた。

 そして週末、再び38度台の発熱を起こした。しかも、今回は前の薬では効果が見られなかった。それでも、相変わらず同じ薬を飲み続けながら、ただし、薬の重ね飲みと、飲み過ぎだけは避けて、布団の中でひたすら月曜日になるまで我慢した。

 月曜日になって、総合病院に行く。診察前に測った体温は38度3分。

 診察室に入って、ここまでの経過を丁寧に説明した。発症が二週間前であること。熱は下がったが二週間、咳は続いたこと。再び発熱したこと。なのに医者は、聴診器を胸に当てたのと、喉を見たくらいで、
「呼吸音はきれいだから、たいしたことはない。喉の腫れのひどさが原因ではないか」
と診断し、特に検査することもなく、喉の腫れを抑える薬と解熱剤、風邪薬を処方しただけだった。ただ、薬を飲んで調子が良くないようならまたきて下さいとは付け加えてくれたのだが。

 ところが、変なところで律儀に、処方された薬が一週間分あったので、それを飲み切って、なお調子が悪ければ、という風に受け取ってしまったのである。その結果、朝、38度台の熱があっても、毎食後、薬を飲むたびに少しづつ熱が下がり、夕方頃には微熱レベルまで下がるので安心するのだが、夜のうちに薬が切れて熱が上がりはじめ、翌朝には再び38度台に戻ってしまうという日々を繰り返してしまったのだった。
 しかたなく、同じ病院に行くことにした。担当医も同じである。相変わらず聴診器で聴く範囲では異常は感じられないとのこと。とはいえ、このままでは症状の好転が見込めないと思ったので、言葉にこそしなかったものの、哀願するような目で先生の目を見つめたところ、
「まぁ、せっかく来て貰ったんだから、念のために胸部X線と血液検査しておきましょう。ちょっと時間かかるけどいいですよね」
もちろん依存はない。しっかり調べてもらった方が安心である。

 血液検査は結果が出るまでに、小一時間かかるということで、そちらを先に受ける。結果は直接内科に連絡してくれるとのこと。そこで、レントゲン検査へ行く。こちらは画像が出来上がるまで待って、受け取った画像を持って内科に戻る。レントゲン写真を看護婦さんに渡すと、血液検査の結果が出るまで、まだ三十分かかるとのことで、待合室で待っていると、十五分もたたないうちに診察室に呼ばれた。
「血液検査の結果はまだだけど、X線検査の結果を見るだけで、これはもう立派な肺炎ですね。入院してもらいますけどいいですか」
いいも悪いもない、治療が必要なら従うしかないのだ。
 この後、入院に際しての検査ということで、再度の採血、採尿、検便(これは出たときでいいからと言われた)、CTスキャン等を受ける。この間、病院内を相当うろうろ歩き回っていた。検査が終わって、外来に戻ると病棟からお迎えが来ていた。今度はわざわざ車椅子でのお迎えである。いまさら、車椅子に乗らなくてもと思ったが、ここは好意に甘えて病室まで連れて行ってもらった。

 考えてみるとここまでの状態になってしまう前に、手を打つことは可能だったはず。最初の発熱時に薬を飲みすぎなければ、その時点で医者に行っただろうし、熱が下がっても咳が続いている時点で医者に行くことも出来たろうし、最初に医者に行った時点で、粘ってX線検査だけでも受けていれば(おそらく、この時点で肺炎の兆候は出ていたはずなので)、もっと適切な治療が受けられたはずなのだ。
 それをしなかったばかりに、この先、長く苦労をする羽目になった。

TOPへ戻る  旧喫文店Q「お品書き」に戻る  前へ 次へ