アメリカには一人旅をするというイメージがない。知り合いを訪ねたり、何かの目的をもって挑戦するぞー!という感じで、ボーッとしたいとか、心を癒したいとかそういう場所ではないような気がする。
もう10年位前のこの旅行は、知り合いを訪ねたり、後からくる友達と合流したりするような感じだったけれど、賑やかなベニスビーチにいてもなんだか落ち着かなかった。私の性格にもよるのだろうけれどなんだかそういう所にいると孤独を感じてしまうのだ。
でも、アメリカはやはりすごい。特に映画においては映画フリークになって現実から永遠に逃げたくなってしまうくらいだ。
ゴールドジムを見学に行った時、あのダンスで有名なグレゴリー・ハインズがトレーニングをしていた。(ホワイトナイツやコットンクラブなどに出演)向こうからなんとこちらを向いてポーズを取ってくれたのでした。有名な俳優さんに出会えるなんてやはり嬉しいものです。
ニューヨークではメトロポリタン美術館やMOMA,グッゲンハイム美術館に行ってアメリカ人以外の巨匠の絵画を見て感動しているのも可笑しなものでしだが、考えてみればアメリカもあらゆる人種の集まりなのでした。


「アメリカ」 藤原新也 

峠から眺められる道はこれまで走った道よりもたおやかに、そしてときにはなまめかしくも感じられた。幾重にも重なり合うゆったりとした緑の起伏をなめる一本の白い曲線。清楚な自然と装飾のない単純な人工物が予期せぬ調和を遂げている。

しかし、美しいが寂しい。あたかも‘木の砂漠‘だ。内陸の荒涼へと向かう車の数もめっきり減った。そんな風景の中をしばらく走りつづけると、先程までわずらわしく感じた他者になぜか親近感を覚えはじめる。

中略

フリーウェイの旅行者はある一瞬からそのとき自分がどのような意思表示をすべきかを知ることになる。運がよければ3日に1度くらい、アメリカの人生の達人ともいうべき、あのアメリカ的なる博愛主義者が短くて0.5秒、長くて2秒程度私の車窓の横を通りかかるのだ。彼もしくは彼女は、この地球上で見知らぬMAN(人)とMAN(人)が不意に出会った場合、私たちが互いになしうることはきわめて単純でやさしいことだったということをおしえてくれる。つまり、車の窓の向こうで心の窓を開くということだ。

そんなふうに笑みをたたえ、軽くうなずき合う。

「やってるね」

「生きてるな」

そんな感じだ。

中略

フリーウェイ上でのこの小さな出来事は、アメリカという国における人間の関係を知るヒントになる。この多民族国家では、そのように相手の素性や血をまったく理解しないがゆえに、それが他者へのいわれのない差別となって現れることがしばしばある。しかしまた同時に、目の前の人間にまつわる表面的な属性(民族、血、言語、風俗、生活習慣)を知らないがゆえに、逆に属性を超えた人間の根底にある単純で純粋な理念や感情で繋がろうとする美徳が働き、幸いにもそのようなケースに恵まれたときには、同民族同士以上に楽天的ともいえるほど赤裸々な感情交流がそこに生まれるのである。初期の旅行者はその塩と蜜の攪拌状況の中で翻弄されるのだが、もとはといえば、その不可解はアメリカ人のアメリカ的なる他者への無知が生んだ2面性(自由主義と排他主義、楽天と懐疑)だと理解すべきである。
フリーウェイ上の窓の向こうにも当然このアメリカ的な2重人格性が表現された。そして1つ言えることは、ある種の冷徹な拒絶も、汚れなき寛容も、日本人があまり持ち合わせない種類の情操だということである。なかんずく、あのアメリカのフリーウェイ上に稀に出現する他者に対する”完全無欠なる寛容の微笑み”は、神学的なモナリザの秘密めいた微笑をアメリカ人が真似するのがむずかしいのと同じように、屈折した同一民族国家で育った我々が身につけるのは容易なことではない。私は窓の向こうの達人に教えられ、それに習いながら幾度が”完全無欠なる寛容の微笑み”を試そうとした。しかし試せど試せど、心のどこかの錆びた最後の小さな窓が開かない。面の皮の下に凍結した皮膚がもう一枚あって、それはいまだにわずかにこわばったままである。

目の前の広大な景観に視線を投げながら思う。

あんなに優しい単純なことがわりと簡単にできるようになるには、さらなる多民族との異種交配と、少なくとも5千マイルくらいのフリーウェイ上のリハビリが必要となろう。

車の走行メーターはロスアンゼルス、サンフランシスコを経てから、まだわずかに1千マイル走ったにすぎないことをしめしている。

藤原新也
主な著書に『印度放浪』 『全東洋街道』 『東京漂流』

 「アメリカ」モーターホーム漂白200日 は車という交通手段がアメリカを知る最もふさわしい方法であるとして、7500ccのマッコウクジラみたいな大きな図体の’移動する家‘を引きずってアメリカを周遊した記録です。

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