2003年12月 No.412月 No.4

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1B(バーツ)=3円位

No.4 を書く前に言っておかなければならないのは、私の記憶が曖昧な事と、全て私が不注意だった事を前提にしています。

旅行会社からライトバンでチュンポン行きのバス停へ。
(タオ島行きのボートがチュンポンから出る。)

先にどこかのホテルから乗ってきたカップルと一緒に行く。

車のラジオから流れているフィル・コリンズの「アナザー・デイ・イン・パラダイス」を一緒に口ずさんでいる。

バスは21時に来るはずなのに1時間近くも遅れて来た。

とっても大きな2階立てのVIPバス。満員だ。

その時初めてカオサンからのバスだとわかる。

2階に行こうとしたが、乗るなり入り口に一番近い席のタイ人のような男の人がここへ座れという。

その人の隣の席は空いている。

バスの中は、ほとんど真っ暗で、もうリクライニングシートをめいっぱい平らにしてほとんどの人が寝ている。

私の隣の女性は異常なくらい太っている。

「ハーイ」と言っても何も言わずちょっと怖かった。

窓のカーテンを開けて寝ずに外を見ている。

リクライニングシートも立てたままだ。太っているからそのほうがいいのか。

私の前の男性はシートをめいっぱい後ろに傾けているから私のバックパックを足元に置くのは大変だった。

24時近く。トイレ休憩。

まだ私の前の男の人は寝ているのでバックを下に置いたままだと太った女性に邪魔になると思い座席にバックを置いて外にでる。

トイレに行った後タバコを吸っていると日本人の若い男性2人がいた。

彼らはこのバスの2階に乗っているという。

スラー・ターニーから船でサムイ島までのジョイントチケットを350Bで買ったという。私はといえば、ホア・ヒンで700Bの旅行代理店より650Bの旅行代理店を見つけて得意がっていたのに馬鹿みたい。

明日の夜、サムイ島はフルムーンパーティー(満月の日に海岸でパーティーが行われる)があるらしい。だから若いヒッピー風の人がこのバスには多いのか。

久々に日本の人に会ったせいか話込んでしまった。彼らはタイからインドへ1年くらい掛けて旅をするらしい。
爽やかな感じの青年たちだった。

バス席に戻る。

隣の太った女性が戻っていないので、バックを膝において待つ。

帰ってくるなり私の前の男性がまだ戻っていないからか、リクライニングシートを勢い良く前に戻した。そうしなければ入りずらいのだろう。

出発。真っ暗になった。

座席の下にバックを置こうとした瞬間、バックのチャックが少し開いているのに気が付く。

嫌な予感。サイドポケットにいれておいたデジカメが見当たらない。

何度も何度もゴソゴソと周りに気を使いながら探す。

ない。

暫くは目を閉じる。そうしなければこの事態をどうしていいのかわからないのだ。

休憩が入ったせいか、前の男の人はリクライニングシートを以前のように傾けず寝ていない。右隣のカップルは鼻歌を歌いだす。

隣の太った女性は、カーテンを閉めリクライニングシートを傾けて今はぐっすり寝ている。

右後ろのヒッピー風の男性たちは、起きているような気配がする。

とにかくあの休憩時間に盗まれたのだ。

写真が撮れない旅行になる事がこんなにも私を絶望的な気持ちにさせるなんて。

重いパソコンは何の為に持ってきたのだ。

これから旅の始まりなのに。このまま諦めたら笑いもんだ。

「いいじゃないか、なくったって旅行はできる」という考えにはどうしてもなれない。

冷や汗が出ている。どういうわけか自分の不注意を棚に上げてこんな事があるはずないと思おうとする。

チュンポンまで後どのくらいだろうか。

絶対にこの1階のバスの誰かが盗んだとしか思えない。

どうする。どうする・・・・・・

そう思っているとバスが停まった。

「チュンポンで降りる人は誰ですか」

とバスの入口から若い男の人が入ってきた。多分チュンポン〜タオ島の船会社の人だろう。

「私です」

と手を上げる。

なんとこのバスでチュンポンで降りるのは私一人だった。

みんなタオ島ではなくサムイ島に行くのだ。

咄嗟にその船会社の人に「ポリスに電話してくれ。カメラが盗まれた」と言う。

彼は「落ち着いて、落ち着いて、本当にバックを全部調べたのか、よく自分で入れた所を間違えて覚えているから」と言う。

「調べた。間違いない。カメラはない。ポリスを呼んでくれ」と興奮気味に私は言う。

すると彼は、「わかった。乗客の手荷物を調べていい」と言う。

私もいざとなったらどんなに乗客の人たちが怒っても手荷物を調べるか、ポリスを呼ぼうと思っていた。意地でもカメラを見つけ出す。

私は、順番に入り口近くの人から
「I'm sorry.  I'm sorry」と言いながらひとりひとり調べる。

女の人が「You are right」といいながら進んで荷物の中を調べさせてくれた。

カセットテープだけとか、手荷物は持っていないなんて人もいた。

その間、私のバックは座席に置かれていた。

その船会社の人は私が移動していても私のバックの傍にいた。

全員調べたが結局カメラは見つからなかった。

どうしよう。このまま降りてしまうか。粘るか。

すると、船会社の男の人が「ここにあるじゃないか」と言って、3つあるサイドポケットの一番外側にあるチャックを開けながらカメラを取り出した。

そこには絶対入れたことはない。(と思う・・・)カメラに衝撃がもろに当たるからだ。


でも、出てきたのだ。

もういい。それだけで私にとっては奇跡だ。

どんな恥をかいてもカメラが出てくればいいのだ。

何度も I'm sorry を繰り返しながら、ひとりバスから降りた。

私の為に30分はこのバスは停まっていただろう。

バスの2階にいる人たちがカーテンを開けて私を見ている。

間抜けな被害妄想の迷惑なおばさんだと笑われているような気分になる。

もし、私もサムイ島に行くのだったら、このバスは朝到着し、船に乗り換える為に全員が慌しくて、きっと一人一人を調べる勇気も出ずに何も言わずバスを降りたかもしれない。

この満員バスでたった一人真夜中、チュンポンで降りるのが私だけだったのが幸いしたような気がする。

しかし、私の勘違いだったのか。

真相はわからない。

バスの中では全ての人が犯人に思われた。

そういう感情が人間の気持ちの中に発生し、いろいろな誤解を生む危険性に改めて自分を恐ろしく思う。

そして、物質的な損害がある時にこんなに大胆にずうずうしく行動する自分。

その反面、日本では曖昧な自分。

とりあえず。

どんな状況であろうと貴重品は肌身離さずの基本を忘れた自分がいけなかったのだ。

船会社の人と思われる人に連れて行かれたのは、だだ広い真っ暗な場所。

ボート乗り場ではないことは確かだ。

床にゴザが雑然と敷いてある。

彼が、

「ここで、朝の6時半までバスを待ってて下さい」 

「え?」

今、午前2時。

つづく

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