『刻の向こうの少女』



第6話『その男 バルト・バハッド(後編)』




  「何だーーー!」

 バーンズのアインラッドが四散する。閃光の走った方向にベルト達が目をやる。カケルのジャベリンである。カケルのジャベリンの放ったヴェスバーのビームがバーンズのアインラッドを打ち砕いたのである。

  「さっすがV装備だ!てめえらに俺のガンダムはやらせはしねえぞ!」

 そしてベルト達がカケルに気を取られた隙をつき,プルのガンダムはベルト達の包囲から上空に逃れる。

  「か,カケル!」

 プルはやっと来てくれた助けに再び泣き出しそうになる。v
  「プル,ガンダム使ってて何やってんだよ!ガンダムは無敵なんだ!あんな奴らにやられっぱなしでどうすんだ!」

 と照れ隠しというわけではなさそうである。だがプルを叱咤しているわけでもない。カケルはガンダムがやられっぱなしであったことを本気で悔しがっているようだ。

  「攻撃しなきゃ,やっつけられねえんだよ!ガンダムの力を見せてやるんだ!」

  「攻撃・・・」

 そうである,ベルト達の攻撃にパニックに陥ったプルは自らが攻撃をするのを忘れていたのである。ただ逃げ回っていただけなのであった。そして我に返ったプルはベルト達のゾリディアを見つめ,叫ぶ。

  「あんな奴ら,あんな奴ら,やっつける!」

 プルは操縦桿を強く握り,ガンダムの腰にマウントされていたビームライフルを構えた。

 敵はプルの考えていた以上に残酷であった。そして明らかに遊びで戦争を,人殺しをしているようなやつらである。


 機動打撃巡洋艦スレイプニルがコロニーの回転に同調する。艦が安定したことを確認した艦長はバルト中佐に話しかける。

  「そう言えば,先程司令はケリアム・ベルト戦闘部隊の連中のことを『意外と頭のいい連中』とベヤナグ少尉におっしゃっていましたね。あれはどういうことなのです。」

 とバルトの『頭のいい連中』という言葉が引っかかっていたのか,そんな話を持ち出す。

  「そのことかね。まあ言うなれば絶対的な恐怖によって相手を封殺するというやつだよ。まず最初に恐怖を与えることによってね。」

  「わからなくもないですが,徹底的な破壊により恐怖を与えたところで,逆にそれ以上に民衆が復讐心を燃え上がらせるようなこともあるのではないでしょうか。」

  「ふふ・・・,だがその恐怖も2度も与えれば大抵の人間はもう逆らおうとは思わんものだよ。そして恐怖は伝播する,拡大しながらな。現に見てみたまえ,再三のコロニー駐留軍の援軍要請にもかかわらず,他のコロニーの部隊はまるで援護に来る気配はない。やつらを恐れてのことだよ,下手に刺激したら今度は自分達が何をされるかわからんからね。」

 軍隊が敵の報復を恐れて動けないとは事なかれ主義もいいところである。だが,これといった仮想敵もないままのんべんだらりと過ごしてきた連邦軍にはそういった部隊が多い。そういう時代である。

  「確かに・・・」

 と艦長はやや呆れながらバルトの言葉に相槌を打つ。

  「貴様は何をやっているんだ!」

 とそんなところへあの老人,ジュドーが怒りを表しながら艦橋に入ってきた。

  「あの子を,プルをどうした。どこにやったんだ。」

 怒気を含んだジュドーがバルト中佐を問い詰める。

  「おや,ご老人。あの子は今頃がんばっていてくれるはずですよ。」

 とバルト中佐はそれに答える。

  「貴様!またあの子をガンダムに乗せたのか!」

  「自分は何もしてませんよ。あの子が自分で出てくれたんですよ。自分でね。」

 バルトは悪びれた様子もなく答える。確かにバルトの言っていることは正しい。ガンダムを勝手に持ち出したのはプルである。最もその隙をわざと作ったのはバルトに他ならないが。

  「とにかくプルをガンダムから降ろすんだ!あんな子が戦いをするなんてことはもう有ってはならんのだ!ニュータイプの戦いが見たいというのなら,俺が出てやる。プルを戻すんだ!」

  「ご老人,元パイロットのあなたならお判りでしょう。そんなことを戦闘中にできないということは。それにご老人のお言葉はありがたいのですが,この艦には現在出払っているガンダムとカケルのジャベリンしかモビルスーツはないのですよ。」

 そしてバルトは全く動じることもなく続ける。

  「まあ,見ていてください。これから面白いショーが見れますよ。」

  「貴様は!」

 だが,バルトはそんな今にも掴みかかろうかという勢いのジュドーを無視して命令を下す。

  「きっちりとコロニーの回転に対する艦の同調を維持しろよ。」



 そしてベヤナグ少尉はというと,コロニーから少々離れた宙域にて小型艇の中から数機の作業ポットに何やら指示を送っていた。

  「急げ,中佐の作戦時間に遅れんな!」

 作業ポットは少しずつ間隔を空け,何やら箱型の装置を配置していく。



 プルのガンダムがベルトのアインラッドを捕らえ,ビームライフルを放つ。だが,それはアインラッドの持つビームシールドによって防がれた。

  「ちっ,なんて威力だ!ガンダムちゃん!」

 そのビームにシールドが破られそうになったことにベルトがわめく。

  「あんた達なんか!あんた達なんか!」

 プルは叫び,ベルトに向けてビームライフルを連射する。だが,その時プルのガンダムの左右からデリーとバイガルのゾリディアがビームライフルを抜き,挟み込むように迫る。ビームがガンダムに向かって発射され,そしてガンダムのいたところで交錯する。
 プルは感じていた,彼女を狙う殺意が左右から押し迫るのを。見たという感覚ではない,ガンダムの装甲そのものを通して,一瞬鳥肌が立つような感じがした。そして反射的にプルは操縦桿を引き,攻撃をかわしていた。



  「げひゃーーー!てめえ,よくも俺様の愛馬を!」

 アインラッドを失ったバーンズのゾリディアがカケルのジャベリンに長槍を突き立てる。カケルは機体を横に逸らしてそれをかわし,擦れ違いざまに蹴りをくわえる。

  「うるせえ!この変態野郎!」

  「げべえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 吹っ飛ばしたバーンズのゾリディアにビームライフルを叩き込む。2,3発が機体をかすめたが,そのままビルの向こう側へと落下していき,視界からは消えてしまった。追撃に移ろうとした時,一瞬プルのガンダムの方に目をやる。プルのガンダムは3機のタイヤに追われ,ビームから逃げ回っている。



  「この野郎,落ちやがれ!」

  「死ねやーーーーー!」

 とベルト達のゾリディアはプルのガンダムにビームを乱射する。しかし,プルはガンダムを操り,それをかわしていく。

  「右,左,また右。感じる・・・感じるよ!」

 プルは次々と迫り来る敵の攻撃を感じ,かわしていく。そうプルは敵の攻撃が来る前にかわしていた。文字通り装甲越しにガンダムの機体全体を通して感じられるのである。敵の意志のようなものも感じられる。すなわち敵の動きが感じられた。

  「そこ!」

 プルはビームライフルを発射する。確かに敵の動きは感じられたのだが,さすがにプルの敵は甘くなかった。ビームは敵を捉えていても,その寸前でアインラッドのビームシールドによって弾かれる。



  「またプルのやつ包囲されてしまったのかよ!俺のガンダムがやられちまうだろ!」

 カケルにはまたプルがベルト達に包囲されてしまったように思われた。今度の場合,プルは確実に敵の攻撃をかわしているのだが,そこはまだカケルの実戦経験が浅いためかその判断まではつかなかった。

  「てめえ,離れろ!」

 カケルはヴェスバーを拡散モードに変え,ベルトのゾリディアめがけ発射する。

  「この蝿がーーー!」

 ベルトはビームシールドで拡散ビームを防いだが,それにより一瞬視界が奪われる。その時プルは一気に機体をベルトのゾリディアへ接近させた。それを阻止せんとデリーとバイガルのゾリディアがビームライフルを放ったが,プルは機体を回転させるだけの最小の動きでそれをかわす。
 ベルトが視界を取り戻した瞬間,ビームサーベルを肩から抜き,斬りかかるガンダムの姿が眼前にあった。アインラッドを捨て全速で機体を後退させるが,ガンダムのサーベルはアインラッドを真っ二つにし,その先端がゾリディアの装甲をかすめる。
 

 さっきとはうって変わって感覚がシャープになっている。まるで自分の周りから別の自分が乗り移っているかのようである。カケルの攻撃を受けた時,一瞬ベルトのゾリディアの重圧感のようなものが薄れた感じがしたのである。その瞬間プルはそこに向け機体を加速させていた。
 ガンダムの目が光を放つ。


 プルはベルトのゾリディアを追う。味方が不利になりつつあるその状況にこれまで控えていたリシテア級バイク巡洋艦デーヌカが動き出す。プルが再びゾリディアに切りかかった瞬間,その間に火線が走る。デーヌカが弾幕を張りつつ前進してくる。
 巡洋艦とはいえ,艦全体を文字通りハリネズミのように武装させたモトラッド艦の砲撃であるから,それ以上は突っ込むことはできなかった。プルはガンダムを後退させ,火線から逃れる。カケルのジャベリンはデリーとバイガルのゾリディアをビームで牽制しながら,ガンダムに近づく。

  「いけねえ,熱くなり過ぎて作戦忘れるところだった。」

 とマニュピレーターの甲からワイヤーを放ち,ガンダムとの間に接触回線を開く。

  「聞えるか,プル。」

  「え,カケル?」

  「いいか,あのバイク巡洋艦を誘い出すんだ!今からデータを送る。この位置だ。」

 ジャベリンからデータが転送されてくる。そしてディスプレイ上にコロニー内の座標と位置が表示される。

  「え?この場所,何なの?」

  「作戦だ!あいつをやっつけたければ協力するんだ!あいつに出て行って欲しいんだろ!」

 バイク巡洋艦をやっつけられる,出て行かせることができるという言葉にプルは少し気を引かれた。

  「わかった。あいつをあそこに連れて行けばいいんだね!」

 プルが答えるや否や,その位置にデーヌカの猛烈な砲撃が加えられる。プルとカケルは散開してそれをかわす。
 プルはライフルを数射し,デーヌカを牽制するが,ビームは艦首に張られたビームシールドによって弾き返される。そしてプルは改めて思った。

  「もしこいつをやっつけてもこんな大きなのが爆発したら,コロニーがもっとめちゃめちゃになっちゃうよ!」

 プルはどうしたら良いかと迷うが,結局はカケルに言われたようにやってみるしかないと思う。その時再び殺気を感じた。プルは操縦桿を反射的に引き,ガンダムに向かって放たれた閃光をかわす。



 攻撃してきたのは,ベルトのゾリディアである。その両手には先程の長槍ではなく,ビームハンドホークが握られていた。

  「てめえ,もうこれまでだ!もう殺してやる!苦しみの続きは地獄で味合わせてやるぜえぇぇぇ!!!」

 プルに向かってベルトは咆哮するが,プルにはもうその咆哮は意味をなさなかった。

  「許さない!許さないもん!」

 プルは街をめちゃくちゃにし,それどころか遊びで人を殺していたベルト達への怒りが込み上げてきた。さっきまではベルト達の圧倒的な恐怖にただ竦んでいただけであったが,今はその恐怖はもう感じなかった。一人ではないような気がした。カケルが来たからという訳ではない。もっとそばに誰かがいてくれるような感覚がした。
 ベルトは2振りのビームハンドホークを振り回し,ガンダムに迫る。プルはガンダムを後退させ,バルカンで牽制する。数発がゾリディアに命中したが,その装甲に弾かれる。しかし,そのうちの一発がメインカメラを直撃した。

  「てめえ!!!」

 と吼えるベルトのゾリディアに接近し,サーベルの斬撃を加えるが,これは左腕のビームシールドで防がれる。しかし,その瞬間ボディに蹴りを加え,ゾリディアを弾き飛ばす。
 そんなガンダムに再びデーヌカから援護のための弾幕が浴びせられる。プルもライフルを数射撃ち返すが,これは命中しなかった。そして割って入ろうとするバイガルがゾリディアのライフルとアインラッドのミサイルを撃ち込んでくる。
 プルはそれをかわしながら,後退していく。その後をデーヌカが追う。プルはカケルに指定された位置へ向け,ガンダムを進ませていた。



  「ダミーだと!」

 リアム・キロッドが舌打ちをする。ビームを喰らった敵艦はみるみる萎んでいく。彼らがやっとキャッチアップした敵艦はダミー風船だったのだ。

  「連邦め!せこい手を使いやがって!」

 デロッサも怒気を含んだ声で叫ぶ。

  「となると敵艦はまだコロニー内か?!」

 とリアムは機首を返し,コロニーを遠望する。



 3機のゾリディアとバイク巡洋艦デーヌカが,プルとカケルの機体を追う。プルは時折ビームライフルで敵を牽制しながら,ガンダムを後退押させる。先程指示された位置へ向けて。
 デーヌカは再び街を踏み潰しながら前進していく。押し潰されていく昨日まで知っていた街の光景にプルは堪らなくなって飛び出しそうになる。だが,プルはある思いからそのことから押し留められる。

 (もしあいつをやっつけてもあんな大きなのが爆発したらコロニーがめちゃくちゃになっちゃう。そんなのダメだよ・・・)

 そしてカケルの言っていた作戦というものに一縷の希望を託す。



  「くくく,あと少しというところか。それにしてもプル嬢,本当にいい動きだ。私の見込んだ通り最高の逸材だ。」

 とコロニーの回転速度に速度を同調させ,外壁近くに取り付いているスレイプニルの艦橋でバルトは笑う。コロニー内での戦況はしっかりと艦橋のモニターに映し出されている。
 そしてバルトは自嘲気味にコロニーの外壁の一箇所を見つめていた。ジュドーはそんなほくそ笑むバルトを不愉快そうに睨んでいたが,あることに気づく。ついさっきまで聞えていたはずのプルの恐怖に震える声が聞えなくなっていることを,気配そのものは消えていない。それにプルのガンダムが健在なことはモニターを通しても確認できた。



  「やっちまえ!もうこんなやつらコロニーごとぶっ潰しちまえ!」

 とケリアム・ベルトは突進をするデーヌカに向かって叫ぶ。デーヌカは主砲,対空砲,ミサイルランチャーなど,あらゆる火器を怒涛の如く放ちながら突き進む。

  「もう止めて,もう止めてよーーー!」

 破壊されていく街の光景にプルは叫ぶ。その時,デーヌカはカケルが指示していた位置に差し掛かる。
 そしてその瞬間,デーヌカの周りの地面がそれを囲むように四角形に光るやいなや,デーヌカはプルの視界から消えた。プルの街をそしてそこに住んでいる人達を虫けらのように踏み潰してきた悪魔のようなバイク巡洋艦が突如消えた。



 そこを見るとコロニーの表面には四角形に穴が空いていた。コロニーの一部の外壁が突如外れたのである。そしてその穴から宇宙が見える。

  「落っこちちゃった・・・」

 プルはあまりのことに唖然と呟く。デーヌカはコロニー外壁の落とし穴に落ちたのである。コロニーのプレートそのものを外すというとんでもない落とし穴に。



 突如宇宙に放り出され,艦の態勢がままならないままコロニーの接線方向に投げ出されるデーヌカをスレイプニルの艦橋は捉えていた。

  「よっしゃーーー!撃てーーーーー!」

 バルトの号令とともにスレイプニルの主砲が咆哮する。前部に配置された連装砲三基計六門の砲からビームが真っ直ぐにデーヌカに向かって,放たれる。
 ビームはデーヌカの前部砲塔および前輪に直撃する。前部砲塔はグシャグシャに引き裂かれ全滅し,さらに前輪は脱落して宇宙に放り出されていく。

  「ち,撃沈は無理だったか!」

 バルトが舌打ちをする。そして艦橋で様子を見ていたジュドーも突如のことにあっけにとられていた。
 スレイプニルは次弾を放とうとするが,その瞬間デーヌカはコロニーのミラーに隠れてしまった。



  「やろう!何しやがった!」

 コロニー外の閃光にベルト達は外壁に開いた穴からデーヌカを追って宇宙へ飛び出していく。

  「コロニーに穴が開いちゃったよ!」

 コロニー内の空気が流出していくその穴を見つめながらプルが呟く。コロニーに穴が開き,空気が流出する恐怖は学校での避難訓練等を通して聞いていた。それゆえにプルは怯える。

  「大丈夫だ。俺達はやつらの後を追うぞ!」

 とカケルはプルに言う。プルがその穴を見るとその周りからプチモビルスーツや作業ポットが現れる。その手にはシートや資材を持ち穴に向かっている。

  「コロニー公社の連中さ。あんな人だけど,バルト中佐の計略は完璧だからな。穴が塞がらないうちに俺達も出るぞ!」

 そう言ってカケルのジャベリンは穴に入っていく。そしてプルのガンダムも作業をする頃に公社の作業ポットの脇を抜けそれに続く。



  「デーヌカがやられただと!」

 リアム・キロッドはその光景を見ていた。やっと囮のダミー風船を捕らえた宙域からコロニーの近海に戻ってきたところである。そんな時にデーヌカは大破に近い損傷を受けたようである。
 そして彼らはスレイプニルを挟んでデーヌカと反対側に位置していた。デーヌカを追ってコロニーの外に出てきたベルト達を含めてスレイプニルを挟む形で。

  「だが,包囲しているのは我々の方だ!」

  「袋のネズミだーーー!」

 とデロッサも叫び,リグシャッコー隊が前進する。望遠レンズで捉えた敵艦には直援のモビルスーツ隊は上がっていないようである。
 だがその時,リアム達のカリスト級巡洋艦エウテルペ隊の後方に無数の光の帯が現れる。20,いや30はいた。反応はモビルスーツ部隊である。

  「伏兵?いや,またダミーか!」

  「連邦め,せこい手使いやがって!」

 再びのダミーにデロッサが頭に血を上らせ,ライフルを数射する。だが,まだ照準をするには遠すぎるし,相手はダミーと思われる相手である。
 しかし,ダミーと思われたモビルスーツ部隊からも数射撃ち返してくる。狙いはリアム達のいる位置からはるかにずれてはいたが。

  「本物?日和見の連邦の部隊が動いたか?」

 もし本物のモビルスーツ部隊だったら包囲されるのはこちらである。



  「ダミーから離れずに撃て!」

 ベヤナグは作業ポットの中から指示を出す。やはりモビルスーツ部隊はダミー風船であった。そのダミーの後ろからビームライフルを手にしたポットがビームは放っているのである。さもモビルスーツが撃ち返しているかに見えるように。

  「あと数射したら離脱だ!うまく乗ってくれよ,あちらさんもこちらさんも。」



  「デロッサ准尉,戻れ!」

 と頭に血の上ったデロッサにリアムが言う。だが,デロッサはビームを連射する。その一発が敵に命中し,そして爆発ではなく,弾ける。

  「中尉,やっぱりやつらはダミーです。」

  「だったら余計だ!敵艦を狙う。」

 デロッサの報告を受け,エウテルペを中心に集結していたザイガ中尉の隊もスレイプニルに対する攻撃態勢に入ろうとする。その時,再び別の方向から光の帯が現れる。今度は5つ,10といろいろな方向からである。

  「いいかげんにしろ!」

 と艦橋でエウテルペのデルレム艦長も唸るが,今度は光に見合った数だけビームやランチャーを放ってくるのが確認される。

  「今度は本物だとでもいうのか?」



 多数のビームや光のすじが虚空に放たれるが,やはりエウテルペ隊の位置からははるかに逸れている。だが,今度の火線はダミーにしては濃密過ぎる。今度は本物である。狙いが逸れているのは,相手の練度の低さおよび度胸のなさを物語っているのかもしれない。しかし,相手の数が多すぎる。これでは危険だ。



  「やっと動き出したか・・・」

 作業ポットの中でベヤナグ少尉がほっとする。ベルト戦闘部隊を恐れて近く宙域に待機していた他のコロニー駐留軍が動き出したのである。これまでは日和見を決め込んでいたが,モトラッド艦の大破および他の部隊の突撃を見て,勝ち馬に乗り遅れまいと動き出した。もっとも最初に突撃したのはベヤナグ達が放出したダミー部隊ではあるが。



  「あんたたちなんてもうコロニーから行っちゃえーーー!」

 とプルが半壊したデーヌカに向かってライフルを構える。だが,ライフルが少し発光しただけであった。

  「ビームが出ない?どうしたのよ?」

 エネルギー切れだ。

 デーヌカの生き残っている対空砲がガンダムに集中し,プルは後退する。



  「ユプシロン,ライフルのエネルギー切れです。」

 スレイプニルのほうでもガンダムのエネルギー切れを捉えていた。

  「ちょうどいい,ビグザム殺しを使え!」

 その報告を聞いてバルト中佐が叫ぶ。

  「ビグザム殺し?ハイパービームサーベルですね!」

  「ハイパービームサーベル射出準備。カタパルトセット。」

 オペレーターの確認に続き,艦長が命令を出す。

  「ビグザム殺しと言っているだろう・・・」

 バルトはぼそりと言う。
 ガンダムへ射出するために新しい武器がカタパルトに載せられる。バルトが『ビグザム殺し』と呼んでいたハイパービームサーベルである。ビグザム,人類史上最大の戦いと言われた一年戦争におけるジオンの巨大モビルアーマーの名前である。確かにこのハイパービームサーベルは通常のサーベルに比べはるかに大きかった。


  「プル・ミグト,ハイパービームサーベルをカタパルトから射出する。」

  「ハイパービームサーベル?射出って?」

 プルがスレイプニル艦橋のオペレーターからの通信に答える。

  「ビグザム殺しだ!あのビグザムすら真っ二つにできるような!」

 バルトが横から割ってはいる。

  「ビグザム?何それ?!」

  「とにかく大型のビームサーベルだ。機体をスレイプニル前方に持って来い,モニター右にグリーンランプが点ったら,あとは機体に任せておけば自動で受け取ってくれる。」

 プルはその指示に従い,スレイプニルの前方にガンダムを移動させる。

  「グリーンの指示?出たよ!」

 その時カタパルトからハイパービームサーベルが射出される。そしてガンダムはその動きに同調し,サーベルを見事キャッチ,そしてそれを両手で握る。

  「本当にこのサーベル大きい・・・」

 プルはサーベルを見つめながら,そう独り言を言う。その時突如

  「げひゃーーーーーー!!!」

 コロニーの窓の部分が割れ,ゾリディアが現れる。カケルにやられたはずのバーンズのゾリディアである。

  「ガンダムーーーーー!へひゃひゃひゃひゃひゃーーー!真っ二つに引き裂いてやるーーーーー!」

 バーンズはビームアックスを振り上げ,プルに襲い掛かる。

  「あんた達なんかーーー!」

 再びコロニーを破壊して襲い掛かってきた敵に対し,プルは怒りハイパービームサーベルを横一文字に振った。
 ハイパービームサーベルとビームアックスは火花のようにメガ粒子を放ち一瞬干渉したが,次の瞬間アックスから放たれるビームは二つに裂け,そしてハイパービームサーベルはアックスの持ち主の胴に食い込む。

  「ぎゃはーーーーーーーーーー!!!」

 バーンズの絶叫とともにゾリディアはバターのように裂け,そのまま二つの破片となり,そして宇宙に四散した。



 ガンダムはハイパービームサーベルを振り抜き,爆発するゾリディアを後目に,デーヌカに向かって突き進む。

 プルはサーベルの出力を最大にまで上げる。その光の束は一気に膨れ上がり,裕に100mを超える大きさになった。その光景にデーヌカは狂ったように生き残っている対空砲火をガンダムに集中するが,不思議と一発も命中しなかった。

  「行けええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーー!!!」

 プルの叫び声とともにガンダムは加速し,巨大な光の束を振り下ろす,それはデーヌカの破壊された前部主砲部から甲板に食い込み,艦体を斜めに一気に切り裂いていく。そしてガンダムがその脇を駆け抜けるとともに,文字通り真っ二つになった。
 二つに裂けたデーヌカは次々と閃光を放ち,やがて巨大な火の玉となり砕け散る。
 その巨大な火の玉を見て,プルは呆然とした。あまりに大きな爆発であった。爆発が起こった時,デーヌカはコロニーから流れていったため,コロニーそのものには損傷はない。しかし,あまりにも大きな爆発の前にプルはすくんだ。
 いつの間にかガンダムのエネルギーゲージが下がり,ハイパービームサーベルの光の束も消えていた。ハイパービームサーベルのエネルギー消費はそれほど大きかった。

 

  「やろう!デーヌカを!ガンダムーーー!切り刻んでやる!」

 ケリアム・ベルトが叫び,ゾリディアの腰から両手のビームハンドホークを振り上げる。だがその時,彼らを見つけた連邦のヘビーガン部隊がビームを連射しながら向かってきた。ヘビーガンの数は10機,その後方から5機のGキャノンが続く。

  「ゴミどもがーーー!邪魔をするなーーー!」

 獣のように怒り狂ったベルトの矛先はヘビーガン部隊に向かった。乱射されるビームを野性的な感で右へ左へとかわし,先頭のヘビーガンの肩からハンドホークを叩き込む。ハンドホークはコックピットまで達し,ヘビーガンは動きを止める。あっという間に間合いを詰められた他のヘビーガン隊はあせり,ビームをゾリディアに向け乱射したが,その姿はその位置から消えて,先程ベルト仕留めたヘビーガンにのみ当たる。
 ヘビーガンの爆発の閃光の中,ゾリディアは次の獲物に接近,両手のハンドホークを振り回し,首を刎ね,胴体をグシャグシャに切り刻む。そして切り刻まれたヘビーガンを近くにいたGキャノン向け,放り投げ,それについて一気に接近する。
 ゾリディアがハンドホークを振るう。Gキャノンのパイロットは機体を後退させ,それをかわせたと思った。しかし,その瞬間視界は光で覆われ,意識は霧散していた。
 確かにGキャノンはベルトのハンドホークの間合いを外し,それをかわしていた筈だった。しかし振り抜く瞬間にハンドホークの柄が伸び,Gキャノンのコックピットを捉えていた。ハンドホークの柄が伸縮自在なのである。最もそうでなくて結局Gキャノンは切り刻まれていたであろう。何しろモビルスーツの世代が違う。

  「ひゃははははははーーー!どんどん切り刻んでやるぜーーー!」

 血を見た?ことで少し機嫌が直ったのかベルトが叫ぶ。しかしその時,その時新手のジャベリン部隊が現れる。戦局が有利と見て他のコロニーの連邦軍部隊が次々と参戦してきたようだ。

  「隊長,これでは限がありませんぜ!」

 ヘビーガンを串刺しにしていたバイガルが,ベルトのゾリディアに近寄り告げる。



  「ど畜生ゥゥゥゥゥ!!!ガンダムウウウゥゥゥ!必ず殺してやるからなあああぁぁぁぁぁ!!!」

 再びベルトは咆哮する。そして周りの連邦軍をなぎ払いながらベルト達はコロニー宙域から離れていく。



 プルのガンダムはコロニー近くの宙域で止まっていた。いや正確には少しずつコロニーから流れて行っている。デーヌカを沈めた後,プルは一時的に冷静さを取り戻したが,逆にそのためコロニーでの死に被い尽くされた光景こと,あまりにも残虐な敵の咆哮,そして自分が振るってしまった強大な力のことが次々と頭に浮かんできた。どれもあまりにもそれまでの自分とはかけ離れたものである。わけのわからない感情が入り混じる。今日これまでに起こったことが嘘のようであった。そして戦えてしまう自分の力が。まだ子供であるプルにははっきりとそういう考えが浮かでいるわけではないが,そういった感情がこみ上げてくる。

  「わたし・・・また・・・どうしちゃたんだろう・・・どうなるの・・・」

 プルはひとり呟く。その時ズシンとガンダムは衝撃に襲われた。プルは虚を突かれた一瞬敵と思い,血の気が引いた。

  「何やってんだ!やられたのか?」

 カケルのジャベリンがガンダムの肩を掴んで接触回線を開いたのである。

  「あ,カケル?ううん,大丈夫よ。わたしもこの子も。」

 カケルのジャベリンを見るとその腕や胴にストリングスが絡み付いていた。カケルはデリーのゾリディアと交戦していたのである。そのビームストリングスに絡め捕られてあわやというところを連邦の援軍に救われたのである。もっともプルにはそんな事情はわからなかった。

  「よし,だったら俺について来い。離れんなよ。おまえ宇宙航法のやり方知らないんだろ。」



 宇宙航法,宇宙では自機の位置を確認し,目標に向かって進んでいくにはそれなりの技術を要する。特にミノフスキー粒子下では目標が視認できない時には恐怖を感じることも多々ある。戦闘の終了が完全に確認されれば,目標側も短波を出して誘導することもできるが,それもミノフスキー粒子に邪魔されることがしばしばだ。



  「カケル,やさしいんだね。」

 プルは知っている人に会い,そしてカケルが少し気づかってくれたことにほっとしてそう答える。

  「違うって。おまえが迷子になったら,どうせ俺が回収にいかされるんだ。だから先に回収しただけだって。」

 カケルはそっけなく言う。

  「そっか・・・そうなんだ・・・」

 プルは小さくその言葉に答える。



 スレイプニルに向かう途中,プルは自分の服が戦闘中嘔吐したもので汚れていることに気付いた。口の中もすっぱく感じる。プルは艦に着くまでにハンカチでその汚れを一生懸命拭おうとしたが,汚れは渇きかかっており,それは無理だった。



 何とかスレイプニルに甲板にガンダムは着艦し,モビルスーツデッキ内に収容されたが,プルはコックピットから出ようとはしなかった。自分の服が嘔吐したものでドロドロだったので恥ずかしかったということもある。そして・・・
 だが,コックピットは素早くガンダム取り付いたカケルによって開けられてしまった。ハッチのロックはしてなかったので外から簡単に開けることができる。モビルスーツデッキにいたベヤナグ達もガンダムに寄ってくる。そしてハッチの上からカケルが見下ろす格好でプルに言う。

  「おい,どうしたんだよ?・・・なんだ?ゲロ吐いたのか?」

  「え,あ・・・でも・・・」

 プルは小さくなって恐る恐る答える。

  「たく,俺のガンダムを汚しちま。わっ,と!」

 横合いからベヤナグの蹴りが飛んでくるが,動きが鈍かったのかカケルはそれをかわす。

  「ぎゃふん!」

 蹴りはかわしたのだが,今度は尻がカケルの顔面を直撃し,二人は絡まり合ったまま流れて行く。

  「軍曹,後は頼みます。」

 流されながらもベヤナグは同行していた女性下士官に叫ぶ。

  「了解。」

 それに答えて女性下士官はコックピットに取り付く。そしてプルにぬれたタオルを差し出し,もう一枚のタオルでプルの体を拭き出す。

  「あんたはえらい。怖い中よくやった。よくやった。」

 プルの体を拭いながら女性下士官は言う。彼女もプルがガンダムに乗る時,バルトの命令を受け一役買ってしまっていたので,罪悪感からかプルへの態度はやさしかった。柔道の有段者である彼女もバルトの前では形無しであった。もっともあの時は彼女も悪乗りしてしまっていたが。無論軍隊であるから上官の命令は絶対なのは当然である。しかしそれ以外にもバルト中佐という個人の存在が大きかった。

  「わたし・・・わたしは・・・」

 女性下士官に支えられながらコックピットから出たプルは少し怯えていた。戦闘のためということ以外に,勝手にガンダムを持ち出してしまったことを思い出したからである。

 

 そこへバルト中佐がモビルスーツデッキへ入ってくるのが見える。プルにいろいろと迫った大人である。
 プルの脳裏にはガンダムを持ち出しただけではなく,自分はそれを敵側に渡そうとしてしまったことがよぎる。プル自身はコロニーのみんなを助けたかっただけであるが,プルの頭にはあることが思い出される。映画とかテレビとかで聞く,「敵前逃亡は銃殺刑だぞ!」
 「スパイは死刑だ!」「裏切り者には死を!」等という言葉である。プルは別にそういう番組が好きを言うわけではなかったが,そんな言葉が浮かぶ。
 プルは怯える。怖かった。身動きが取れなかった。しかし女性下士官に支えられながら,プルの体はバルトのほうへ流れていってしまう。



  「わたし・・・わたし・・・」

 出撃前に難題を迫られたバルトに対してプルは怯えており,声にならなかった。本能的にか怖い人だと感じていたのかもしれない。

  「プル・ミグト嬢。」

 問いかけにプルはビクンと震える。

  「良くやってくれた。君の活躍でザンスカール軍を撃退することができたよ。君は素晴らしいセンスを持っている。本当に私は感動しているよ。」

  「あのわたしは・・・あの子を・・・」

 と予想していたものと違って笑みを浮かべながら言うバルトにプルは恐る恐る尋ねる。

  「連邦軍を代表して,プル嬢,君には礼を言う。よってあの時のことについては今は語るまい。ただ一つだけ覚えておいて欲しい。」

 バルトは表面上は穏やかにプルに語りかける。そんな様子をガンダムの側から「まったく」という感じで少々困った顔のベヤナグと何となく興味深げなカケルが見ている。

  「君は戦いを望まないのかもしれないが,そういうことが通じない悪い奴らがいるということだ。君のそのことは十分に体験しただろう。そういう奴らはなぎ払わなければならないのだ。そして覚えておいて欲しい君にはその力があるということを。」

  「あ・・・わたし・・・わたしには・・・」

 プルは意外なバルトの言葉に驚きならも,プルはまだ震えていた。プルにはなぜかこの中佐を信用することができなかったからかもしれない。

  「まあ,この話はここまでとして,プル嬢,ゆっくりと休んでくれたまえ。君のお父上もいらっしゃっていることだ。」

 とバルトのその言葉にモビルスーツデッキの入り口に目をやると,下士官に導かれて入ってくるレグリーがいた。

  「あ・・・あ・・・お父さん・・・」

 プルはレグリーの方へ飛び,そしてレグリーに抱きつく。

  「プル・・・」

  「うわあああああぁーーー!お父さん!お父さん!」

 プルは泣いた。ただひたすら泣きじゃくった。



 バルトは艦橋に戻り,司令用のシートに着く。

  「すべてはことにままに。ご老人には自室にお帰りいただいたかな?」

 艦橋にいたジュドーは戦闘が終わると下士官に半強制的に引きずられて,割り当てられた自室へと連れられていった。そして満足げなバルトに艦長が尋ねる。

  「司令,今後の予定はいかに?」

  「そのままだよ。本艦はこれより補給部隊とランデブー後,当初の予定通り重力間テストのため地球,ダブリンテストベースへと向かう。」

 バルトはそう言った。













 やっと次の話を書くことができたっす。前回の『ベルト戦闘部隊』から約3ヶ月・・・今回は無謀にも一挙2話公開ということで!

プルツー「単に構成力がなかったから2話になってしまっただけだろ!」


 ギクッ!
プルツー「全く遅筆な上に無計画で・・・本当にこの先話を続けられるのか?」

 ま,まあ・・・それは何とか・・・

 本編の方ですが,やっと最初のコロニー編(黎明編?)が終わったということで,次は地球へ向けての旅が始まります。果たしてプル・ミグト達は無事地球にたどり着けるのか?
 リアムやベルトが再び立ちふさがるのか?一番の問題人物のバルト中佐の動きは?そしてあの地ダブリンで待ち受けるものは?
 請うご期待っす!

プルツー「ダブリン・・・」



 あと感想の方も待ってま〜〜〜す!よろしくお願いします。






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