「星の海へ……」


「星の海へ……」







  「どうして……」

   ジュドー・アーシタには、目の前に寝静まった現実に追いつくことが出来なかった。

   霊安室のベッドには彼女が横たわっていた。

   ハマーン・カーンを追い詰め、この戦争に決着を付けて還る途中、アーガマから入ってきたのは信じたくない内容だった。

   プルツーが死んだ。自分を助けるために砲撃修正を傷の深い身体を押して力尽きたという。

  「どうして……」

   リィナ、プルと彼は二度も家族≠失った。彼女だけは、今度は死なせる訳に行かない……出撃前に誓い、宿命に向かった。

  「ジュドー、彼女は……最後までお前を案じていたんだ」

   どのような言葉を掛けても諌めにならないことは解かっている。士官学校を出て何年も同じような場面を見た。

   親友――いや、家族を失った悲しみは痛いほど解かる。。狂いたくなるほど打ちひしがれているだろう。

  「ブライトさん……なんで死ななきゃならなかったんだ!」

   ノーマルスーツのヘルメットを放り出し、彼女の白くなった顔を撫でる。やがて悲しみに耐えられなくなって崩れ落ちた。

  「ジュドー……彼女は戦士としての持ってる限りのものをさらけ出してお前を助けようとしたんだ」

  「何のために……こんな子供まで」

  「我々も、お前も、彼女は全てを助け出そうとしたんだ」

  「後から出てきて……どうして! こんな子供まで! なんでプルツーに…そんなことさせたんだァ!」

   ジュドーの手が袖を掴んだ。そのまま壁に叩きつける。鈍い構造材の音が室内に響いた。

  「あの時は戦闘中だったんだ。言い訳がましい話だが……お前を助けるために、彼女は手助けが必要と感じたんだ。この戦争の中で」

  「あんた、なにを言ってるのか…後から飄々とやって来て!」

   右ストレートがブライトの左頬に激突するのに時間は掛からなかった。再度、壁に背中が激突する。

  「……何が戦争だ! 何が必要だ! 大人の気まぐれで生まれて、大人の気まぐれで戦わされて、大人の……もし生きてくれるなら、シャングリラで一緒に暮らそうって……」

   ジュドーの声が枯れるほどの咆哮は、悲しみと正比例して小さくなる。見ているしかない気がする。

  「そんなに戦争がしたいんなら、したい奴だけで勝手に、何所か遠い所でやってればいいんだ! なんで死ななくていい奴ばかり行ってしまうんだ! 勝手に命を弄びやがって! 
   死にたいやつだけ勝手に死にやがれエエエエエッ!!」

   嗚咽だけが小さく、長く響く。彼と彼女だけにするしか自分に出来ることは無かった。





  「ブライトさん……」

   どれくらい経ったろうか。目を赤くしたジュドーが傍らに座った。

  「すいません。殴ってしまって」

  「いいんだ、私も気持ちは解かるよ」

  「……」

   ブライトの顔を覗く。今までに見たことの無いような悲しい、沈んだ表情をしていた。もしかしたらリィナが、プルが死んだときも…

   たしか、同じぐらいの子供さんがいるんだったな。会議室に入った時に慌ててモバイル端末を閉じていたのを思い出した。

   二人の子供……もしかしたら、彼女のなかに見えたのかもしれない。そして一番辛かったのは……

  「その胸の……何だい?」

   胸のドッグタグに付けたプレートを出した。透明樹脂に挟んだ彼女≠見せる。

  「プルです。ダブリンであいつが……その後、みんなで必死に探した時……」

  「そうだったな……」

   プルのキュベレイが四散したあと、みんな、一部の望みを掛けて必死で彼女≠フ遺品を探した。爆散したキュベレイは断片さえも見つからなかった。
  最終的に見つかったのは枕に張り付いた毛髪だけだった。葬儀をそれ≠ナ行なったのを思い出す。

  「いつも一緒にいたいって、あいつ言ってましたから……一緒に」

   プレートの中には彼女の一部≠ェ挟まれていた。

  彼女≠見詰めるジュドーの横顔を見る。今も何所からか飛び出てきそうな感じがした。

   顔には出さなかったが、彼女の存在は……アーガマに乗り込んでからの月日の中で一番明るかったと思う。

  「あいつには悪いことをしたなって……」

  「悪いこと?」

  「何時か、リィナが死んだとき……妹になる≠チて言ってくれたんです。その時、気持ちが動転して掌で遮ったんです」

   遣り切れない顔がプレートを見詰めた。

  「もっと、何故……もっと優しくしてやれなかったんだろうか。受け入れてやれなかったんだろうか。自分の中で……」

   許せないのだろう。誰が一番許せないのか……やはり自分に行き着いてしまう。

   仲間に対する…いや、家族に対する、その気持ちが痛いほど……あの時、彼がギャロップカーゴに突入したときにも。

  「なあ、ジュドー」

   一つだけでも、何か出来ないか……思いついたことを切り出した。

  「今からでも遅くない。一緒にしてやらないか?」





   ジュピトリス≠フ窓から星雲が手招くように広がるのが見える。傍らでルー・ルカが見蕩れていた。

   胸からそれ≠取り出した。ふたり≠ノ見せるために。

  「ジュドー、それ……何?」

  「ん?……うん、道連れ……てっとこかな」

   プルが死んでから、ずっと下げているペンダントだった。よく見ると中にもう一本、髪の毛がある。

  「プルとプルツーだよ。一緒に……一緒にいようって約束、守れなかったからな」

  「へえ……ちょっと見せて」

   ルーの手が樹脂ケースを取る。まるで寄り添うように絡み合っていた。

  「今度は……いろんな所に連れて行ってやろうと思ってな」

  「ジュドーって」

  「何だよ」

  「……案外、センチメンタルな所があるのね」

  「あ!…言ったな! 俺だって!」

  「解かってるから……そういう所が」

   地球が遠く見える。浮かぶ星屑と変わらないほど小さく見えた。進む方向にはパノラマが広がる。



      ――さあ、何時までも一緒に、飽きるほど……星の海をを楽しもうな――



   寄り添う二人≠ノ銀河は微笑みかけていた……




三佐さんからの頂いたSSです。

 この前TVでやっていたZZ47話を見てかかれたそうです。

 プルたん,ツーちゃんを失ったことへの悲しみが伝わってきます。本HPの『プルたん妄想』と違ってジュドーのプル達への優しさも伝わってきます。

 また,『彼女の存在は……アーガマに乗り込んでからの月日の中で一番明るかったと思う。』というのには賛成です。プルには回りを明るくする力があります。

 まわりの人間に元気を分け与える力があります。それが彼女の力です。自分にはそう思えます。

 そして・・・やっぱりプルたんのいない世界は寂しい・・・というのが個人的な感想です。三佐さん,ありがとうございました。



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