マッドサイエンティスト達の日常






「ニュータイプ研究所。それはこれから私が配属される場所。人類の革新した姿を垣間見ることができる。人類の進んで行く姿。そしてそれを切り開いていくところ。」



 一人の青年が宮殿の前に立ち,その思いで自分を奮い立たそうとしていた。そして青年はそう思っていた。青年の名はキリアム=ビクトといい,大学でもニュータイプに関わる研究を行なっていた。そんなキリアムはニュータイプ研究所に配属された。言うなればエリートと言っていい。優秀な科学者が集められ,時代の先端を進む研究を行なう場所であり,それはこの国アクシズの未来とって重要な一面を担う研究となる。
 キリアムは緊張していた。今日が初日だからだけということではない。キリアムは宮殿に呼び出されていたのである。別にニュータイプ研究所が宮殿とそれほど関係があるというわけではないが,自分の上司となる室長が所用のためここしばらく宮殿のほうに詰めていなければならず,顔合わせと辞令の受け取りのため呼び出されたからだ。
 それにしてもいきなり宮殿とは緊張する。キリアムは着慣れないスーツに身を固めていた。宮殿の前で深呼吸を行ない,門衛に身分証明書を見せる。宮殿という割にはチェックは比較的簡単なものであった。それは外部からの工作員が入ってくることはない虚空の宇宙に浮かぶアクシズの特殊性のためだったかもしれない。しかし宮殿という環境に緊張する。
 宮殿の中に入る。「右手と左足が一緒に出てる。ゲッ,緊張している。待てよ,これは合っているのか。」などと考えてしまう。とにかく緊張している。
 キリアムが呼び出されている宮殿内にある一室に着く前に自分が学生時代に書いた卒業論文を鞄から取り出し,それをもう一度確認する。やはりニュータイプについて書かれたものだ。キリアムがニュータイプ研究所配属されることができたのも,面接の際にこの論文に注目してもらえたからだった。だからもしこの論文の内容について質問された時のために往生際が悪いがそれを確認する。そんな時,彼の耳に宮殿とはあまり似つかわしくない少女の声が入る。



「プルプルプルプル〜〜〜♪」



 それに気づいた瞬間。ドンッ!
 キリアムはその少女とぶつかっていた。

「わっ!とっ!だっ,大丈夫お嬢ちゃん。」

 キリアムはあせる。宮殿での粗相。そして宮殿にいる偉いさんのお嬢さんかもしれない娘にぶつかってしまったこと。

「大丈夫だよ。おじさんこそ大丈夫?」

 そう言って少女はキリアムが落とした書類を拾ってくれた。「おじさん」と言われたことはちょっとショックだったが,少女が微笑んでくれていることにキリアムはほっとする。

「ありがとう。」

 キリアムは少女から書類を受け取る。少女は微笑んでまた走り出した。

「プルプルプルプル〜〜〜♪」

 キリアムはそんな少女の後姿を見送り,「宮殿ぽくない子だな。」などと考えているうちに緊張が少し和らいだ。
 呼び出された宮殿の一室のドアをノックする。

「失礼します。キリアム=ビクト参りました。」

「入りたまえ。」

 彼は室内に入っていく。



 キリアムはニュータイプ研究所に向かうためのバスを待っている。普段は宮殿と研究所の間にはあまり行き来はなく専用の連絡バスがないため,通常の路線バスを使う。宮殿での顔合わせは思った以上に簡単に終わってしまった。結局のところ用意した論文には触れられることはなかった。単に自己紹介と事務的な書類の受け渡しだけであった。こんなことならあまり緊張し過ぎずもう少し宮殿を見ておけばよかったと少し残念に思えてきた。そうこう考えているうちにバスが到着し乗り込む。
 ニュータイプ研究所に到着する。そして自分の職場となる研究室の研究員達との顔合わせ,簡単な自己紹介の後,関係部署への顔見せと研究施設の紹介がある。こういうものはニュータイプ研究所だろうと普通の職場だろうとたいして変わらないのだろう。そしてキリアムを案内してくれているのは学生時代いた研究室の先輩であるデアス=ラークという研究員であり,知った仲なだけに話しやすい。だが,キリアムと違って女性にもてそうな優男である。
 やがてキリアムはサイコミュのテストを行なう実験室に案内された。ガラス張りで外から観察できるようになった室内の中央には椅子が一つ設置されていた。椅子には様々な測定装置らしき機器が取り付けられている。また,多くの配線がされているヘルメットが目に付く。
 デアスがヘルメットを手にとっていろいろと説明をしてくれる。ニュータイプの被験者に被らせ,その脳波パターン等のデータをとるためのものである。キリアムもヘルメットを手にとって興味深げに見てみる。そしてなんとなくその匂いをかいでみた。そこからはいい香りがした。

「あっ,シャンプーのいい匂い。」

「嗅ぐなよ!」

 とデアスが突っ込む。

「あの・・・,もしかして被験者は女性なんすか?」

 シャンプーの甘い香りがしたので聞いてみる。これまで男ばかりの環境下にいたキリアムは妙な期待感を持っていたのかもしれない。

「まあ・・・女性と言えば女性だが・・・。」

「女性と言えば女性・・・?」

 そんな言葉に何故かキリアムは被験者の姿を女ヘラクレスように勝手に想像してしまった。

(ヘラクレスがこんな甘い香りのシャンプー使うなよ!)

 匂いを嗅いでしまったことを後悔してか勝手なことを思う。

「明後日ここでサイコミュの試験がある。早速だがおまえも立ち会うことになるだろう。」

「サイコミュの試験ですか。そりゃあ楽しみです。」

 自分の見たかった技術である。キリアムは興奮しながら答える。

「そうそう,今日おまえの歓迎会やるから」

「あっ,ありがとうございます。」

 少し不安げにキリアムが答える。

「そうか・・・おまえは下戸だったな。まあ大丈夫だ。今日はおまえはネタなんだから。」

「ネタですか・・・?」

「ああ,おまえが想像しているのよりはるかにここの仕事はハードだ。だからパアッと騒ぐネタが欲しいんだよーーー!」

 妙にハイテンションになるデアスに対し,キリアムは職場というのはそんなに鬱憤がたまるものなのかと少し不安を覚えた。ただそれが普通の鬱憤であればよかったということを後に知ることになる。だが,このときはそういう想像はしていなかった。



 そんなこんなのうちに初日,二日目を終える。初日の歓迎会はやはり荒れていた。研究所というものでもそんなにストレスがたまるものかと思ってしまった。次の日に平然と出てくる先輩方のタフさにも驚かされる。そして今日キリアムが心待ちにしていたサイコミュの試験である。別にモビルスーツを用いて行なうような派手なものではないが,研究者としてのキリアムの胸はときめいた。キリアムはその場に計測員として参加させてもらっていた。
 昨日にデアスから今日行なう作業のレクチャーを受けている。やることは指示された計測項目にチャンネルを合わせ,レベルに応じた感度でその数値を読み上げるという単純なものであったが,作業は少々忙しいものとなりそうである。また,キリアムは最新の研究所にしてはいささか原始的なやり方で少し違和感を感じた。それくらいはプログラムでもう少し簡略化できそうなものである。
 キリアムは多くの研究者が集まっている実験室を眺め,その場に立ち会っていることに興奮を覚えた。その時,実験室の扉が開く。
 被験者が入ってくる。

「ヘラクレスの登場か・・・」

 先日の自分の勝手な想像を未だ根に持っているのかキリアムはそう思う。だが,次の瞬間キリアムは自分の目を疑った。
 被験者として入って来たのは年端もいかない少女であった。しかもキリアムはその少女を知っている。先日宮殿でぶつかった元気のいい少女であった。しかし少女の表情は先日とは別人のようにひどく沈んでおり,そしてどこか何かを諦めているかのような感じだった。
 少女は部屋の中央にある椅子に腰掛ける。少女の姿は短パンに袖なしのシャツという軽装だった。女性研究員がその少女の体にクリームを付け,センサーらしきものを次々と貼り付けていく。その手際がいい。あいかわらず少女の表情は沈んでいるように見える。そして最後に例のヘルメットを被せられる。その時少女の表情が一瞬凍りついた。だが,作業を続ける女性研究員はその間ずっと無表情のままだった。キリアムはその様子をただ呆然と見詰めていた。

「おい,もう一度手順をチェックしておけ!」

 との先輩の研究員の声にキリアムは我に返る。そしてその声にあせったのかあわただしく自分の手元の計器をチェックし始める。
 そうこうしているうちに試験が始まる。キリアムは少女の様子を窺おうと試験室の中央をチラチラ見るが,次々と出される指示に答えるのに忙しく中々少女の様子を窺い知ることはできなかった。とにかく手を動かして数値を読むので文字通り手一杯であった。へまをやるわけにはいかない。ごちゃごちゃとしたことが頭に浮かんだが,それが考えに至っている暇はなかった。



 何をどうやったかははっきりとわからない。そんなうちに試験は終了していた。長かったような短かったような感覚である。ただ体力的には長かった。とにかく脱力感のようなものがあった。そんなキリアムの様子を見てか,先輩の研究員がキリアムに休憩を取ってこいと言ってくれる。そんな言葉にキリアムは廊下に出た。だが,キリアムには新人の自分が先に休憩に入るのも何となく落ち着かなかった。研究所そのものにも慣れていないことがあり,落ち着けそうな場所はトイレぐらいしか思い浮かばない。できればトイレには誰もいないことを願う。少し一人になりたい。そんな気分だった。
 キリアムはトイレへと廊下を進んで行った。すると前の方から先ほどの被験者の少女が歩いてくる。少女は当然のことながら疲れきり,表情はやはり沈み,元気な姿とは程遠いものだった。少女とすれちがった時キリアムは何気なく少女に声をかけた。



「ごくろうさま。」



 そんな言葉がこの場にふさわしいとは思えなかった。だが,キリアムは何となくそう少女に声をかけた。そんなキリアムに少女は驚いたような少し不思議そうな顔をした。だが,少女の表情に元気が戻るわけではなかった。



 試験が終わり,そのデータの整理を手伝いながらキリアムは考える,先ほどの少女のことについて。ニュータイプの被験者だという,にしても幼すぎる。そして試験室でのその少女のどこか諦めたようなそして寂しそうな表情が頭に浮かぶ。宮殿であった時とはまるで別人のようであった。どちらが少女の本当の顔なのだろう。そんな思いが次々と浮かぶ。しかしキリアムは手を動かしていく,少女から採ったデータを整理するために。試験そのものは半日程度のものだったが,データは膨大なものとなっていた。
 そんな処理すべきデータの山の前にやがてキリアムの少女への思いは埋もれていった。











 次回『36.9話 プルツーの場合』とか言ってたのに,こんなの書いちゃいました。プルたんの,そしてプリーストの敵とも言えるニュータイプ研究所のマッドサイエンティストのお話。でも,本編の主人公キリアム君は普通の青年だったりします。彼の先輩であるデアスも普通の人っぽい。そう,こういうのって案外普通の人がやっていたりするんじゃないかって。そしてその方がかえって怖いような気がしてこういうの書きました。マッドサイエンティストなんてそうそういるもんじゃないし。(確かに上の方はそうなのかもしれませんが)
 なんとなくもし自分がニュータイプ研究所の研究者だったとしても,実際のところキリアム君のような状態になってしまうんじゃないかと思うところもあります。そうガロード調に言うと「俺の中にもあいつがいたんだ!」(『俺の声が聞えるか』の最後の方のセリフ。詳細はうろ覚え・・・)というような感じです。
 もちろんプルたんのことを考えればニュータイプ研究所の研究員なんて肯定するつもりはありませんが・・・





 でも拙者の場合こうかも・・・



 ジャミル・ミートの場合

 被験者が入ってくる。
 だが,次の瞬間ジャミル=ミートは自分の目を疑った。

ジャミル・ミート「なんで短パンなんじゃー!ブルマーにしやがれ!バカヤローーー!」

先輩研究員「・・・つまみ出せ・・・」



 そしてリストラ・・・



 完



(次作『逆襲のブルマー教団』に続く  ・・・冗談です)


戻る