36.9話 プルツーの場合

 

暖かい夢




 プルツーは眠ることが怖かった。暖かいベッドでの眠りではあったが,再び自分が凍りついてしまうかもしれない。自分がまた変わってしまうかもしれない。そんな気がして眠ることが苦痛であった。そしていつもコールドスリープの中にいる自分の姿を悪夢に見る。

 プルツーはそんな自分を否定したかった。だが,それはできなかった。

 悪夢を見るとわかりならも,睡眠をとらないわけにはいかない。戦士であるプルツーにはそのことが切実にわかっていた。そうしてプルツーは眠りにつく。

 

 しかし,今日の夢はいつもの凍りつくような感覚と異なっていた。暖かく感じた。

 

 プルツーは夢の中でひとり草原の中で眠っていた。日の光が暖かく心地いい。

 やがて,目覚めると向こうで何人かの子供達が楽しそうに遊んでいる。

 プルツーはその光景をぼんやりと眺めていた。そのうち一人の少女がプルツーに気づき,近づいてくる。

 その少女の容姿はプルツーと瓜二つだった。だがどことなく落ち着いた雰囲気のあるプルツーとは違い年相応に子供らしかった。

 「ねえ,あなたもいっしょに遊ぼうよ。」

 だが,プルツーはなぜかいっしょにいけないような気がして留まってしまう。

  「きっとあなたも楽しいはずだよ。」

 少女はプルツーに手を差し伸べてやさしく言う。プルツーはその手に触れた。少女の手は暖かだった。そして自分の手の冷たさにプルツーは気づいた。

 プルツーは思わず自分の手を引っ込めてしまった。

 少女はプルツーに微笑む。

 しかし,プルツーにはその微笑がつらく思えた。何故なのかは思い出せなかった。だが何かとてつもなく重いものが自分にのしかかっているような気がした。

 

 徐々に自分の存在が沈み込んでいく。明るかったはずの世界が自分の周りだけ暗くなる。いつの間にかさっきまでいた暖かい草原がずっと彼方にあった。プルツーはそこに登っていきたかった。しかし,そこには行けなかった。自分の体が重く,そして心のどこかでそれを拒絶するものがあった。

 

 プルツーはひとり雨に打たれていた。黒い雨だった。

 雨が彼女の体を黒く染めていく。ずぶ濡れで黒ずんでしまった小さな肩を抱き,プルツーはかすかに笑う。

  「フフフフフ・・・・・・・・」

 涙が自分の頬を伝っているのを感じた。だが彼女はそれが雨であると否定した。

 そして強い風が彼女の心を吹き飛ばすかのように吹きつける。彼女はその冷たさに震えていた。そしてまたあの冷たい世界に戻ってきてしまったと感じた。やはりそれが自分であるのかと思うようになった。

 プルツーは震える。ただひとり冷たい風に震える。彼女の周りには風を遮るためのものは何一つなかった。そして何も見えない。ただ冷たく暗い空間があるだけ。どこに行けばいいのか暗闇の中見ることはできない。行く場所もない。ただそこから離れることが出来ず立ち尽くすだけだった。

 しかしその時,プルツーは一人の少女を見た。先程プルツーに手を差し伸べてくれていた少女だった。彼女もプルツーと同じように一人暗い世界にいた。だが,少女はどこかに向かってと歩んでいた。何か暖かいものを見ているようだった。

 どこかに向かって歩もうとしている。暖かい何かに向かって。

 なぜかプルツーにはそれがわかった。だが,少女の見ているものが何なのかはプルツーには全くわからなかった。そして何かを見つけている少女がうらやましく思え,またどこかでそのことにいらつきを覚えた。

 しかし,そのいらつきが自分の身を焼いてしまい,そしてどうしようもなく重いものに思えた。後悔?何故なのかわからないが,そういう思いがよぎる。自分自身の存在があってはならないもののように思えてきた。

 

 再び心に強い風が吹く。その風は冷たくプルツーを凍えさせる。そして風は自分自身の存在をかき消してしまいそうだった。プルツーは消えてしまいたくはなかった。そのためにはその冷たさと同化するか,その自分の身を激しい感情で焼くことしかできなかった。

 そのことを否定したいのか,プルツーはそこから動きたかった。どこかに別のところに行きたかった。でも,足が動かなかった。一歩を踏み出すと自分自身を消し去ってしまいそうなそんな痛みが心にはしる気がした。そんな事実に気がついてしまいそうだった。プルツーはただその場で自分が消えていくことを待っているだけだった。そしてプルツーはその場で小さな体を振るわせる。

 プルツーは両手で頭を抱かえうずくまる。プルツーは叫びたかった。泣きたかった。しかし声は出なかった。聞いてくれる人もいなかった。ただ,声もあげることが出来ず口を動かしているだけだった。

  「いやだー。いやだ。私は,私はいったい。私はどうして。」

 そう叫ぼうとしたが声を出すこともできず,プルツーはひとり泣いていた。冷たい世界で涙も出せず,声もあげられず,ただひとり泣いていた。

 誰かを求めている。でも私は戦士。一人の戦士・・・。一人だけの・・・。それしかない。それ以外に私が見られることはない・・・。それ以外の何かを見ることはない。冷たいその地から離れることは出来ない。プルツーの心はそんな中に消えようとしていた。

 

 そうしてその感覚の中に,再び暗いところに溶け込んでいく時,プルツーにそっとふれる手があった。小さな手だったが,それはやさしく暖かい手だった。さっきの少女だった。そしてそっとプルツーを抱き寄せた。それはプルツーにとっては初めて感じる温もりだったかもしれない。プルツーは自分はそれを拒否しなければならないと思った。自分はそんな存在のはずである。だが,そこを動くことができなかった。少女はプルツーに語りかける。

  「いいの,プルツー・・・。あなただけが苦しまなくていいの。」

  「ちがう,私は・・・」

  「あなたはわたし,わたしはあなた。そう,わたしが目覚めるのが少し早かっただけ・・・わたしもそうだったもの・・・あなたにだって見えるはずだよ。あなたも暖かいもの。」

 少女の腕の中でさっきまで氷のように冷たくなっていたプルツーにからだは少しずつ暖かさを取り戻していた。その暖かさからか不意にプルツーの目に涙があふれた。そして感情もあふれ出した。

 プルツーはただ泣いた。幼い子供のように泣きじゃくった。

  「私は,私は。姉さん,姉さん。」

 プルツーはなぜかその少女のことを姉と呼んでいた。

 

 プルツーは泣いていた。少女も泣いていた。

 「いいから,いいから。少しずつでいいからわかって。あなたにも暖かいと思える人がきっといるはずだよ。あなたにもきっと,きっとわかるはずだよ。だからあなたが歩みだして・・・」

 そしてまたプルツーのあたまをそっとなでる。少女とプルツーは互いにその温もりを感じた。

 プルツーは少女に何かを答えたかった。でも言葉はもうなかった。少女はやさしく微笑みプルツーにうなづく。暖かかった。暖かかった・・・・・・。

 

 やがて気がつくとプルツーは元の草原に戻っていた。草原には少女もそして誰もいなかったが,道が見えた。いや,歩み始めたプルツーのそのあとが道になっていった。そして進んだ先に何かがあるような気がした。

 プルツーはどこかに向かって歩き始めていた。

 

 

 

 

 

 とうとう36話シリーズも最後のプルツー編です。今回は最初「鏡の向こうのプル」プルツーヴァージョンにしようかと思っていたのですが,方針を変更してある歌に合わせて作ってしまいました。何かわかったでしょうか?

 中島美嘉さんの『FIND THE WAY』のイメージっす。文章力がないのでいまいちわからないかもしれませんが,聞いてみるとああそういえばと思っていただければ幸いです。(まあ結局そういう感じは出なかったんですけど・・・)あの歌好きなんですよ!聞いていると『どうして君は小さな手で傷を背負おうとするのだろう。』あたりで何となくプルツーを思い浮かべてしまいまして。(種の曲なのに)いい曲っす。聞いてない方は聞いてみる価値ありまっせ!

 プルツーに関しては,まあ夢ですので(そういえばグレミーに続き夢ばかり・・・),この後いきなり変わると言うわけではありませんが,何となくプルツーの中で引っかかるののができたということで,『コア3の少女』に繋がっていくというふうに妄想しました。また,本当は「暖かい存在」というところでジュドーにしようかと思ったのですが,プルツーが道を見つけるという主旨のもと,ジュドーというのはやめました。やっぱりそれはプルツー自身が見つけるものだと思いましたので。(「鏡の向こうのプル」ではプルはジュドーと言っていますが・・・。これも昨今のジュドーバッシングの影響か・・・)

 36話シリーズはこのあたりでいったん休止して次は長編でも書こうかと考えています。そのうちネタが浮かんだら「ルー編」とか「ハマーン編」とか作ってみたいと思うのですが。これからも拙者の妄想SSをよろしくお願いします。感想待ってるハロ!

 最後に36話補完シリーズに付き合ってくださった方,こんな場を提供してくださっているLP様ありがとうございます。

 
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