36.4話 ブライト=ノアの場合

ニュータイプの連環




0088.10.31 ダブリン



 あまりにも長い一日そして凄惨な一日が終わりを迎え,エウーゴ所属の強襲巡洋艦アーガマ艦長ブライト=ノアは一人自室で航海日誌をつけていた。
先刻の戦闘,ネオジオン軍によるコロニー落し作戦による戦闘では人が死にすぎた。ブライトはかつての戦友,人類史上最も苛酷な戦争となった一年戦争をともにくぐり抜けてきたハヤト=コバヤシを失っていた。

 そしてもう一つ,航海日誌の最後にある一つの戦闘,一人の少女の死について書き込まねばならなかった。

 ブライトは迷っていた。その少女の死の記述についてである。その少女の名はエルピー=プルといい,年はわずか10歳であった。そしてアーガマの捕虜であり,その日,自らが乗っていた機体によって無断で出撃し,そして,かつて少女が属していた軍の機体の前に散った。

 見方によると少女はアーガマを脱走し,自らの軍に受け入れられずに撃墜されたと記述できなくもない。その場合でも脱走されたことは問題ではあるが。

 一瞬そんなことが頭に浮かんだブライトは自分を恥じた。自分の考えていることと逆のことが頭をよぎっただけだが,この時のブライトは恥じざる得なかった。



 プルは違った。プルはアーガマを守ろうとしていたのである。プルは捕虜という立場でありながら,自分の居場所をアーガマに見つけていた。

 だが,10歳の少女がモビルスーツで出撃する。異常な光景である。そもそも10歳の少女がアーガマのような軍用艦にいることそのものがおかしい。しかし,アーガマにはごく当たり前のように少年少女がいた。プルがアーガマに自分の居場所を見つけた最大の理由であるジュドー=アーシタという名の少年もわずか14歳であった。ブライトはその少年を当たり前のようにパイロットとして使っていた。一年戦争で戦ったホワイトベースの時代からそうだった。ただし,その時はブライト自身も少年と言ってよかったのだが。

 プルはネオジオン軍によってパイロットにされた。その点ではブライトに咎はない。だが,ニュータイプだということで少年少女をパイロットにするという行為は自分がはじめたのだったのかもしれない。

 ニュータイプ部隊,かつてブライトの率いたホワイトベース隊はそう呼ばれていた。そしてその力を戦場で実証した。その時はただ生き延びるために戦ったのではあった。だが,その戦果そしてその衝撃はあまりに大きすぎた。

 確かにジオンではニュータイプの研究は戦前から行なわれていた。だが,今のブライトにはそのトリガーを引いたのは自分であるように思えてならなかった。

 プルは強力なニュータイプすなわち優秀なパイロット適正者だった。その力は大きなものであり,得難い戦力であった。ブライトもプルを戦力とすることを真剣に検討したこともあった。プルの力はそれほどのものであり,アーガマのメインパイロットであるジュドーを超えていたかもしれない。

 だが,それは言い訳に過ぎない。プルという幼い少女を戦場に出してしまった。・・・自分が出撃命令を下したわけではないが,戦場におき,結果的にはそうなってしまった。



 そしてブライトは思い出す。数日前にもプルがアーガマを守ろうとZZで無断で出撃したことがあった。その時ブライトは言った。「プルがいつ爆発して我々の敵になるかわからないんだぞ。」

 ブライトは立場上プルのことをそのまま受け入れることはできなかった。すなわち,疑わざる得なかった。幼い少女,純粋な心すらも疑わねばならなかった。

 しかし,プルはその後再びアーガマを守るために出撃し,圧倒的な敵に囲まれ傷つき倒れた。プルは自分の艦を必死で守ろうとしていた。傷つき倒れた幼い体があまりにも痛々しげであった。そんな少女の姿にブライトは自分の思いを恥じた。

 そのような警戒はグリプス戦役の折,やはりアーガマのニュータイプパイロットであったカミーユビダンに接触してきた強化人間に関する経験のためでもあった。そしてその後カミーユの精神が崩壊してしまったこともあり,必要以上に神経質にならざる得なかったこともあるのだが,そんなことは傷ついたプルを前にしてはそれは言い訳にもならなかった。

 傷ついたプルを見て,ブライトは恥じた。ニュータイプ,強化人間そういうことで人を疑うようになっていた自分を。いつのまにか目が曇っていたのかもしれない。ジュドーやその仲間たちはプルを信じていた。ニュータイプ。そういうことでなかった。プルを見ていた。だが,ブライトは軍人としての立場,所詮大人の勝手な理屈による色眼鏡でプルを見ていたのかもしれない。

 今までブライトは数多くのニュータイプを見抜き使っていたつもりであった。しかしそれは所詮少年少女を大人の都合で戦場に立たしていた行為に過ぎなかったかのように思えた。



 そしてブライトにはもう一つの後悔があった。それは戦場にプル一人を残し,強大な敵MSであるサイコガンダムを前に艦を後退させねばならなかったことである。アーガマを必死で守ろうとしているプル一人を残してである。プルただ一人を。

 艦の保全を考える艦長としては当然の判断であったかもしれない。だが,結果的には強大な敵を前に幼い少女一人を残して行ったということだ。その結果は誰にでも予想でき,プルは再びアーガマに帰ってくることはなかった。文字通り見殺しにしてしまった。

 このような決断は上に立つものの宿業なのかもしれないとブライトは言い切ることはできなかった。結局やっていることは市民を見捨て逃げ出している連邦の高官たちと同じなのかもしれない。



 プルはわずか10歳であった。ブライトの息子と3つしか違わない。



 大人でそして軍人であるはずの自分が結果的にはそんな子供の後ろに隠れることになった。自分を武人だとは思わないが軍人の本来の責務を忘れ,ニュータイプということに甘え,子供達を犠牲にしてきた。幼い魂を,その思いを一人残し見捨てることになった。



 何のために戦っているのか。そんなことが頭に浮かぶ。生命を育んでくれた地球を守るための戦い,自由のための戦い,所詮それは詭弁でないかと思えてきた。プルのような幼い少女を戦わせ,さらに盾にして,そんな理想もあったものかという疑念が頭をよぎる。いや,その犠牲を無駄にしないためにも戦わねばならないという理念も浮かぶ。その両者がブライトの頭の中ではせめぎあっていた。だが,少年少女を戦場で使ってきたことに対する疑念は大きくなっていった。そしてそれを始めてしまったということがブライトの中をよぎるのであった。もうやめたかった。



 「僕はいやだ・・・。」



 ブライトはつぶやいていた。



 この世界の黒い混沌とした連鎖の中で自分が自らも一緒に踊りつづけていたことに気づき嫌気がさしていたのかもしれない。

 ため息をつき,椅子にもたれかかり目を閉じる。



 だが,ブライトはすぐに起き上がり,結局は再び航海日記を書き続けているのであった。

 そして,航海日誌の最後にこう書き記した。



 「この果てしなきに子供達との旅を終わりにし,いまわしき連鎖を断ち切らんことを誓い。」













 なんかだらだらとした愚痴のようなものになってしまいましたが,「ブライト編」です。

 そして,ここまで引張っておきながら・・・



 結局,声優ネタかい!



 出典はダイターン3の破嵐万丈の最後のセリフです。(実は私はまだ見ていないのですが。)



 それにしても今回はまとまりのない話になってしまった。大人での視点の後悔のような話を書いて見たかったのですが,うまくまとめきれなかった文才のなさが悔やまれます。ついでにジュドー達の戦いはまだ続きますので「終わり」じゃないですしね・・・ブライトの方が抜けますし・・・矛盾している?世の中うまくいかないというわけでして・・・

 ところでハサウェイって逆襲のシャアの時点で12歳でしたよね?



 次は「グレミー=トトの場合」を行くつもりです。ますますドロドロとした話になってしまう予定・・・



戻る