>

36.2話 エル=ビアンノの場合

黄色いパジャマ




一人の少女が箱を抱きかかえて艦の廊下をゆっくりと歩いている。艦長であるブライトに頼まれた小用を済ますために艦内の一室に向かっているところだ。その仕事そのものはいたって簡単なものだった。しかし,その足取りは重く少女の表情は暗く沈んでいる。



その少女,エル=ビアンノの頼まれた仕事は遺品整理だった。



つい数日前までエル達のいる船アーガマの中を元気に走り回っていた少女のものだ。その少女の名前はエルピー=プルといい,エルの憧れていた少年ジュドーにまとわりつき,そのわがままでエル達をよく困らせていた。そしてそのプルの立場は子供にもかかわらず,捕虜だった。

プルそのものはその状況を理解できていなかっただろう。そしてまわりの人間もそのようには扱わず,ある意味忘れていたかもしれない。

それがよかったのかはわからない。プルは必死でアーガマに自分の居場所を求め,ジュドーとアーガマを守ろうとした。そしてその結果,プルは命を落とした。

しっかりしているように見えてもまだ少女であるエルの感情を考えれば,遺品整理のような仕事は別のものに頼むべきであったであろう。この作業に適任だったのは普段雑務等を担当しているアンナ軍曹だったのかもしれなかったが,まもなくアーガマのクルー達は宇宙へあがることになっており,その準備のため手の離せない状況であるため,仕方なくプルの世話をよくしていたエルにその仕事が回ってきた。



主のいなくなった部屋の扉を開けエルは中に入る。そして黙々と部屋の荷物の整理を始める。プルの荷物はあまりにも少なかった。捕虜という立場を考えれば当然だったのかもしれない。だが,プルが遊びたい盛りの子供であったことを考えると悲しい。

エルは部屋の隅に目をやる。その部屋で数少ない子供らしいものであるお風呂の道具があった。プルがアーガマにやってきた時にエルが差し入れたものだった。あの時は軍艦であるアーガマになぜこんなものがあるのだろうと不思議に思ったままプルに差し入れていたことを思い出した。

そんなどうでもいいことを思い出すと不意に涙が出そうになった。涙をこらえ,箱に目をやる。考えてみれば,この遺品には行き先がない。捕虜だからか,そういうことではなくプルには親も兄妹もいなかった。ずっと一人ぼっちだったのかもしれない。



エルは思い出した。いつのことだったか,プルがシャワーに入ろうとして服を脱ぎ散らかしているのに注意した時のことだった。

「また,散らかして,脱いだものはちゃんとまとめておく。あんた,そんなことお母さんに言われなかったの。」

親に放ったらかしにされていた自分にも言えた義理かと思いながらそう言った。

「・・・・・」

だが,突然プルは今までに見たことない寂しそうな顔をした。エルはしまったと思った。だが,プルはすぐにいつものようにはしゃぎながらシャワールームに入っていった。

「そんの知らないもん。プルプルプルプル〜。」

いつも以上にはしゃいで見せたのかもしれない。それはプルの強がりだったのかもしれない。



プルのような年齢の子がパイロットであったことからして,プルにまともな親がいたかどうかは容易に想像できたことだった。プルはその幼い目でどんな世界を見てきたのだろう。決して自分も家庭環境に恵まれていたわけではなかったが,エルには想像できなかった。そして,普段の元気なプルの姿からも想像できなかった。



プルはジュドーの駆るMSとの交戦中に助けられ,アーガマにやって来た。そしてプルは自分を助けたジュドーを兄以上にしたい,いつもそばにべったりだった。プルは明るくにぎやかで,その普段の行動は年相応の少女と変わらないものだった。いや,それよりも幼かったかもしれない。

エルはそんなプルに手を焼かされていた。世話の焼ける妹ができたようなものだった。だが,兄妹のいないかったエルは文句をいいながらもその状況を楽しんでいたことに気づいていた。



やがて荷物の梱包が終わる。その時不意に扉が開いた。そこにはふたりの子供が立っていた。

「シンタ,クム,どうしたのあんた達」

エルは二人に問いかける。

「エルねえちゃん,これ・・・」

シンタと呼ばれた少年がそう言って黄色いパジャマを差し出す。

「洗濯物のなかにあったプルねえちゃんの・・・」

クムも答える。

それはプルのためにダブリンの町で買い求めたパジャマだった。ピンク色のものと黄色いもの,おそろいの二組のパジャマ。ピンク色ものはプルが最後に着ていた。黄色いものは,戦いで傷を負い,熱を出していたプルが一度袖を通して,着替えただけだった。そして洗濯に出されたままになっていたのだろう。

エルは黄色いパジャマを受け取りそっと抱きしめた。だが,それを遺品を収めた箱には入れなかった。



整理を終えた遺品をブライト艦長に預けたが,黄色いパジャマは自分で持ったままだった。

そして自室に戻ったエルは黄色いパジャマを抱きしめながら呟いた。

「そうよね。あの子が帰ってきたときパジャマぐらいなきゃかわいそうだよね。」



あの元気だったプルがそんな簡単にいなくなってしまうはずがない。きっとまた帰ってくる。エルにはそんな気がしてならなかった。



そしてエルは黄色いパジャマを自分の荷物の中に納めていた。











今回はエル編です。ZZの最終回でプルツーが着ていたプルとおそろいの黄色いパジャマから話を妄想してみました。きっかけは単に軍艦であるネェル・アーガマになんで子供用のパジャマがあったのかなあと思いまして。あとプルのことをジュドー以外でも悲しんでいる人はいるはずだと思いまして,こんな話を作ってしまいました。リィナの時も悲しかったでしょうがあの時はジュドーが思いっきり!悲しんでいたのでエルが悲しんでいる隙なんかなかったかと思いまして(笑)ただ,エルに兄妹がいなかったとあるのは拙者の勝手な妄想です。実際の設定はどうだったかは知らないっす。

ちなみに遺品整理というのは種ガンからではなく0083から来ています。どうでもいいことですが。



次回は「ブライトの場合」行きます。本来なら「ルー=ルカの場合」を行きたいところですが,ネタが浮かばなかったもので・・・。

まだまだ逝くよー!(おい!)
戻る