36.1話 ジュドー=アーシタの場合

闇と光の中でプルと


ダブリンの街に,いや,かつて街と言われた場所に雨が降りしきる。

「黒い雨。」

少年は呟いた。

少年は悲しみに打ちひしがれている。いや少年はそのはずであると思っていた。

「あれ,何も感じない・・・。俺ってそんな人間だったのか?おかしいな。」

少年は自問する。少年は愛する一人の少女を先刻失ったばかりだった。悲しみが爆発しそうなものであるが,少年は何も感じることができなかった。ただ,心にぽっかり穴があいているということ以外には。



少年の名はジュドー=アーシタという。少年ながらにしガンダムという白いモビルスーツのパイロットである。そして,少年が失った少女の名はエルピー=プル。あまりにも幼い命を戦場で散らした。しかもただの子供としてではなくモビルスーツのパイロットとしてである。




ニュータイプ。呪われた言葉なのか。少年も少女もそう呼ばれた。



あたりを闇が包み,あまりにも長い一日が終わる。ジュドーは一人暗い自室に戻った。生き残った仲間たちは誰もジュドーに声をかけることはできなかった。それほどまでにジュドーにとって少女の存在が大きいということに仲間たちは気づいていたのである。

「プル・・・。」

闇の中ジュドーは呟く。

「プルー!うおー。うがー。うぐ,うごおおおお。」

ジュドーは絶叫し,床に蹲り,そして転げまわる。感情が突如爆発したのである。あまりにも大きな悲しみ,無力さ,孤独感,怒り,後悔,あらゆる負の感情がジュドーの中をかけ巡る。

「うげ,げほっほほ」

やがてジュドーは息をつまらし咽び込む,その時。

「ジュドー・・・」

少女の声がする。

「プル!」

はっとしてジュドーは顔を上げた。ジュドーの目の前には死んだはずのプルと呼ばれた少女がいる。そして,ジュドーはプルに近づき抱きしめようとするが,

「プル・・・」

ジュドーはプルに触れることができず,プルの姿は光となり消えてしまった。

そして,少し離れた所にプルは再び姿を現す。

「ジュドー・・・。ごめんね・・・。」

プルは悲しそうな顔をする。

「プル,なんで・・・」

ジュドーは問いかける。ジュドーには今のプルがどういう状態かはわかっていたのかもしれない。しかし,理解はしたくなかった。

「プル,どうしてしまったんだ。キュベレイが爆発して,どうしてその後おまえの姿がサイコガンダムのコックピットに。そして,今のお前は。」

それでもジュドーは必死で問いかけた。

「・・・・・」

プルは答えられなかった。

「プル,ごめんよ。」

ジュドーもどう言っていいのか分からなかった。

「ジュドー,いいの・・・。」

プルは悲しそうに答える。

「わたし,ジュドーにお願いがあって来たの。あのサイコガンダムのパイロット。もう一人のあたし,ううん,プルツー。わたしの双子の妹よ。あの子のこと・・・。」

「プルの妹のこと?」

「うん。わたし,戦っている時にあの子のことを否定してしまったけれど,あの子ほんとは違うの。とてもかわいそうな子。眠らされている間に自分をつくり変えられて戦うための人形にされてしまった子。あの子だって戦うことなんて望んでないの。」

「そんな・・・」

あまりにも過酷で悲しいプル達の運命の前にジュドーは言葉を詰らせた。

「お願い,ジュドー。プルツーを助けてあげて。お願い。」

プルは必死にジュドーに訴えた。

「自分を殺した相手なのに・・・。」

ジュドーは思わずもらしてしまった。

「ちがうよ,そうじゃないの。」

プルは反論する。

「あの子はそんなつもりじゃなかったの。プルツーはそんな子じゃないの。あの子のことを否定してしまったから,わたしがあの子を追い詰めてしまったから。だから,あの子自分をあんな形でしか表すことができなくなってしまったの。」

プルはうつむきながら話続ける。

「ジュドーに会ったばかりの時のわたしみたいに自分のことを激しくしか表せなかったの。でも,ジュドーはわたしを必死で止めてくれた。わたしに何をしてるかを気づかしてくれた。わたしを受けとめてくれた。わたしがグレミーに操られていた時もジュドーは必死にわたしを説得してくれた。命懸けでわたしのこと助けてくれた。でも,わたしはあの子に・・・。あの子は作り変えられてしまっているのに。」

「プル,なんで自分を責めるんだ。プルは責められるようなことは何一つしてないんだ。俺が何もできなかったからプルが・・・」

「ううん,ジュドーはいっぱいしてくれた。わたし,ジュドーの妹じゃないのにジュドーはわたしのこといっぱい聞いてくれた。でも,わたしはプルツーのこと何も聞いてあげられなかった。わたしの妹なのに。」

「そんなことないさ,そんなことないさ。プルはこうやってプルツーのことをわかってやろうとしている。わかって・・・」

遅いのかもしてない,でもジュドーにはプルに何か言ってやらずにはいられなかった。

「お願い,ジュドー。わたしにしてくれたようにプルツーのことをわかってあげて。わたしにはもうできないから。わたしもう・・・」

「プル・・・」

プルはプルツーをかばい,必死で助けようとしている。家族のいなかったはずの自分にいた妹を,こんな形でしか知ることのできなった妹を必死で助けようとしている。ジュドーにもその気持ちは痛いほど伝わってきた。



そう言っているうちにプルの姿が薄らぎ始める。

「プル!」

「ジュドー・・・。わたし,もう・・・行かなきゃ。でも,わたしがいなくなってもジュドー悲しまないで。わたし・・・,わたし,ジュドーにあえていっぱい・・・,いっぱい幸せだったよ。だから・・・」

「プル・・・。」

ジュドーは気づいた。プルが必死で泣くのを堪えていることを。

「プッ,プル・・・,まさか,おまえ,俺を悲しませないために。」

「ジュドー・・・,お願い,プルツーを。ジュドー・・・。」

姿が薄れゆくプルはあふれようとする涙を必死にこらえていた。妹のこと気遣いながら。そして,ジュドーのことを

「プルー,行くな!俺はおまえに・・・。プルゥー!」

ジュドーは叫びプルのことを抱きしめようとした。だが,やはりそれはできなかった。抱きしめようとした瞬間,プルの姿は光となり天に上っていった。

「ジュドー・・・,わたしのことで泣かないで。だって,元気のないジュドーはジュドーじゃないもの・・・。」

最後にプルの言葉が聞こえたような気がする。そして,ジュドーの手のひらに一筋の光が残った。再び,あたりは闇に包まれ,ジュドーの意識は薄れ始めた。



「プル・・・・・」

小さな窓から差し込む光に照らされでジュドーの意識は覚醒する。ジュドーはベッドにもたれかかり眠っていたようである。

「夢・・・・・・」

昨日みたプルは自分の夢だったのかとジュドーは問う。だがその時,自分の手のひらに何かを握り締めていることを感じた。

「これは・・・」

ジュドーの手のひらには,見覚えのあるペンダントが握り締められた。プルがいつもしていたものだった。

「あれは夢なんかじゃなかった。プルは確かにここにいた。プル・・・」

ジュドーは自問しながら確信した。

「プル,俺はもう泣かない。元気じゃない俺なんて俺じゃないってプルも言っていたもんな。そして俺はプルツーを必ず助けてみせる。必ず,プルの妹を。いや,俺達の妹を。」

そう言ってジュドーは立ち上がり部屋の外へ歩みだす。プルのペンダントを胸に収めながら。







ついに書いてしまった妄想SS・・・。とりあえず,あまりにもあっけなかったプルの最後,ジュドーの悲しみを補完と言うことで書いてみました。「重力下のプルツー」のあと,ジュドーがプルツーの事を知っていたこと,プルのことで悲しんでいないことにはこんなことがあったのですね。という具合に補完を。

一応大体の話は結構前に妄想していたのですが,文才のなさが足を引張ってなかなか文章を書けずにいました。チョコチョコと書きながらやっと完成したわけでして。

また,上記のようにジュドーの悲しみを書いておきながら,またBBSとか別の機会では「ジュドーの悲しみ方が足らん!」と吼えていることでしょうが,その際はご容赦を(笑)



 駄文でしたが,最後まで読んでくださった方ありがとうございます。



 次回予告,36話補完シリーズ「エル=ビアンノの場合」行きまーす!
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