劇団無国籍『口実クリーニング』


お名前: 佐々木 久善   

 

 私は劇団「無国籍」が好きだ。どういうところが好きなのかと言うと、普通の芝居をとにかく普通に作っているところな

のだ。簡単に「普通」なんて書いてしまったが、近ごろの芝居にはこれがあんまり見受けられない。

 妙に力んでいたり、逆に脱力し過ぎていたり、ちょうどいい加減というものがなくなっているような気がする。無国籍の

魅力は周到に考えられたこの「普通」の感覚にあると思う。今回の『口実クリーニング』も、青年文化センターのパフォー

マンス広場という、照明も使えない場所を使って、数脚のイスと赤い矢印だけの道具、音響のオペレーターまでも舞台に乗

せて、ステージ上でいかにも芝居の所作のようにして音響を操作させてしまうアナーキーさまでも持ち合わせている。で

も、いたって普通の芝居に仕上がっているのだから、恐ろしいのだ。最初の自殺者(実はスタントマン)田中さんの登場の

仕方が洒落ている。この会場で何かを見たことがある人なら記憶にあると思うが、外から入ってこようとし中を覗き込む人

が何人かはいるのだが、まさしくそんな人のふりをして、覗き込んでいるのだ。はじめはただの通行人だろうと思っていた

人が芝居の中に乱入してくると、結構、衝撃的だ。

 そして、この芝居のピカイチの場面は、その田中の断崖からの飛び下り自殺の場面だ。一同、舞台の奧から上手の壁に消

えていき、間。アーという叫び声とジャッポンという水の音が聞こえ、国久さん演じる杉浦がわっと飛び込んでくる。斉藤

大典さんがよろよろと後ろ向きに現われて、まるでヒッチコックの映画のような盛り上がりであった。場所の弱味を逆に最

大限に活用してしまうのが無国籍マジックなのだ。無国籍というと、斉藤大典、国久暁、菊地奈津子の三人というイメージ

があったが、前回の公演から参加している三浦ひろえ(客演フリー)と新人の嶺岸仁美が加わって、一層ドラマに厚みが加

わって、今後が楽しみである。最後に田中を演じた中田さんのいかにも、スタント失敗しました、という感じの血糊とオカ

マみたいなフラフラ感が、私には二の腕よりもはるかに新鮮だった。

 

[1999年9月1日 22時14分20秒]

お名前: 安藤敏彦   

 

 この話題については、劇評とは何か、どうあるべきかという議論に発展するだろうと思いつつ、興味深く見てましたが、

このところ、少し太田氏批判になりつつあるようですね。あまりいい傾向とは思えないので、私も少し意見を言わせていた

だきます。まず、太田氏やCUE森氏のおっしゃる通り、作品を提示してしまったら、ある程度何 を言われても仕方がない

と、私個人としては思っています。ただ、それは、自分がそういう立場で物を作ろうと思っているからでして、それがどん

な人に対しても適用されるべきだとは思いません。批評は一回性のものではなく、次の作品への視野も含んでいる。とすれ

ば、批評として書かれた言葉は、それが不特定の人に向けたものにしろ、最終的にはその当事者に届くわけで、その人が

(辛くとも)受け取れるものであるべきだと考えます。ですから、どの人にもそのような配慮をした上で書いて欲しい と思

っています。

 その上で、今回の国久氏の件についての私の意見を述べます。性暴力に関する作品のある文月氏らしいセクシャルハラス

メントに関する意見は正論だと思います。それが批評とどこまで折り合いがつくかと言う議論は興味深いです。ただ、一般

論では、どこで線が引けるかと言うことは、太田氏のおっしゃる通り、誰もが納得いく結論は得られないと思います。それ

は、セクハラ自体、認識の幅が広くて一般論として議論できない(と私は思う)からです。なので、一般論を展開しても両

者がそれぞれの立場を思い遣ることがなければ平行線に終わるような気がします。ただし、それで傷付いている人が少なか

らずいることは、どの人も認識していてしかるべきだと思います。

 少なくとも今回は国久氏本人が不快を明言しているので、それに対する配慮が欲しいと思いますが、いかがでしょうか。

演劇人フォーラムのホームページに劇評の掲示板があるのは、仙台に劇評が少ないというところから、井伏氏がこれを作っ

て下さったわけです。もともとフォーラムの目的 にある仙台の演劇環境を向上させるということを考えると、この掲示板

も、仙台の芝居を見て良かった、やって良かった、というところにつなげていければいいと思います。昨年出ていた紙版の

演劇タイムズには対談劇評というのがありましたが、劇団側の人がインターネットを利用できる環境であるなら、この上で

やれると内状も知れて面白いのではないかと思います。

 ところで、私はこの舞台を見ているので、本当はその話をたくさん書いた方がいいんですよね。私は無国籍の人達の持っ

ている雰囲気が好きなのですが、「口実クリーニング」で面白いと思ったのも、皆さんと同じく表向き自殺のツアーが実は

自殺をやめさせるというためという仕掛けです。で、後で起こった疑問は、なぜ今こういう題材を選んだのか。これはうが

った読みですが、昨年自殺者が最高でした、それがあったからか。それなら、いっそリストラに遭った50代の人を出して

みると、この仕掛けが生きるのではないかと変な想像をしてしまいました。実際、20代前後の人だけで、死ぬ程の悩みを

見せるのは、少しつらいかも。それでも、見終わった後に納得してしまうの は、的をはずしてなかったからだと思います。

もう一つお願いとして。ソワレを見たためもありますが、願わくば、ツアーの客が 自殺をあきらめて帰るところは、青空を

見たかった。

 

[1999年9月8日 22時15分53秒]

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